北海道大学 遺伝子病制御研究所

研究成果

抗がん剤耐性がん細胞はIL-34を産生することで免疫抑制を促進するとともにがん細胞自身の抗がん剤耐性を強めていることを発見

Baghdadi M, Wada H, Nakanishi S, Abe H, Han N, Putra WE, Endo D, Watari H, Sakuragi N, Hida Y, Kaga K, Miyagi Y, Yokose T, Takano A, Daigo Y, Seino K.
Chemotherapy-induced IL-34 enhances immunosuppression by tumor-associated macrophages and mediates survival of chemoresistant lung cancer cells.
The Journal of Cell Biology, 214(1), 45-59, 2016
免疫生物分野

研究成果のポイント

  1. 抗がん剤耐性となったヒト肺がん細胞がIL-34を産生することを発見。
  2. IL-34はがん組織内に免疫抑制型マクロファージを増加させることを発見。
  3. IL-34はがん細胞自身にも働き、がん細胞の抗がん剤耐性を強めていることを発見。
  4. IL-34を高発現するヒト肺がん患者では低発現である場合に比べ生命予後が不良であることを発見。
  5. IL-34阻害により抗がん剤耐性となったがんに対しても奏功する治療を提案できる可能性がある。

研究成果の概要

化学療法(抗がん剤治療)は、現代がん治療における重要な柱の一つです。また近年では免疫系を標的とした治療法が開発され、大きな治療効果を挙げています。一方で、抗がん剤耐性となったがんの治療は依然として難しく、抗がん剤耐性獲得のメカニズムの解明や新規治療法の開発が望まれています。北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野の清野研一郎教授らによる研究チームは、抗がん剤耐性となったヒト肺がん細胞がインターロイキン-34(IL-34)を新たに産生するようになることを発見しました。IL-34は、免疫抑制型の腫瘍随伴マクロファージを誘導し、更にがん細胞自身の生存維持を助けることで、結果的にがん細胞の抗がん剤耐性を高めていることを見出しました。また、抗がん剤耐性がん細胞のIL-34産生を止めるように操作すると、抗がん剤治療が効くようになり腫瘍増大が顕著に抑えられることが明らかになりました。これらの結果は、抗がん剤耐性がん細胞が産生するIL-34が免疫抑制的な腫瘍微小環境の形成を促進していること、さらにがん細胞自身の抗がん剤耐性を高めるのに寄与していることを示しています。よってIL-34の働きを阻害することで、抗がん剤耐性がん細胞がつくりだす免疫抑制状態を解除し免疫系を標的とした治療の効果を高められる可能性や、さらに抗がん剤との併用療法により抗がん剤耐性となったがんに対しても治療効果を発揮する可能性が予測されます。本成果は、これまで根治の難しかった抗がん剤耐性がんに対するIL-34を標的とした新規治療法の開発につながるものと期待されます。本研究成果は、北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野、北海道大学医学研究科生殖内分泌・腫瘍学分野、循環器・呼吸器外科学分野、神奈川県立がんセンター、滋賀医科大学、東京大学の共同研究によるものです。

内容

(背景)がんに対する治療法としては、外科療法、放射線治療などさまざまなものがありますが、化学療法(抗がん剤治療)は、今尚がん治療の重要な柱の一つです。また近年では免疫系を標的とした治療法、例えば免疫チェックポイント分子を標的とする抗体療法などが開発され、大きな治療効果を挙げています。一方で、抗がん剤耐性となったがんの治療は依然として難しく、抗がん剤耐性獲得のメカニズムの解明や新規治療法の開発が望まれています。
 抗がん剤耐性となったがん細胞の形成する病巣には免疫抑制型のマクロファージが多数集積し、がん細胞を排除しようとする免疫反応を抑制していることが知られています。今回、北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野のバグダーディームハンマド助教、和田はるか講師、清野研一郎教授らによる研究チームは、抗がん剤耐性となったがん細胞が何らかの因子を放出することで免疫抑制型マクロファージを増加させ、ひいてはがんの治療抵抗性に関与しているのではないかと考え研究を行いました。
(研究手法および研究成果)今回の研究では、ヒト肺がん細胞A549をモデルとし、ドキソルビシン感受性A549細胞(A549-DS)を抗がん剤(ドキソルビシン)の存在下に培養を続けることでドキソルビシン耐性A549細胞(A549-DR)を作製しました。
 研究チームはA549-DSに比べA549-DRで発現の高まっている免疫関連因子についてスクリーニングを行った結果、近年発見されたサイトカインであるIL-34がA549-DRで特徴的に高く産生されている事を発見しました。IL-34はM-CSFと同じく、単球/マクロファージに発現するCSF1レセプターに結合します。検討の結果、A549-DRが産生するIL-34はC/EBPbの活性化により免疫抑制型マクロファージの生成に寄与していることがわかりました。尚、A549-DSではIL-34の発現は全くみられず、A549-DRすなわち抗がん剤耐性肺がん細胞で顕著に発現が高まっていることもわかりました。
 さらに研究チームはA549-DR細胞が産生するIL-34ががん細胞自身に働き、がん細胞の生存に寄与している可能性があるのではないかと考えました。上述のとおり、IL-34はCSF1レセプターに結合し作用します。A549-DS細胞ではCSF1レセプターはほとんど発現していませんでしたが、A549-DRではCSF1レセプターが高発現していることが明らかになりました。抗がん剤耐性であるA549-DR細胞は、抗がん剤存在下に培養しても細胞はほとんど死にませんが、抗がん剤に加えIL-34の働きを阻害する抗IL-34抗体の存在下に培養するとA549-DR細胞の生存率は著明に低下しました。詳細な解析の結果、この生存維持効果はAKTシグナル系の活性化によるものであることも判明しました。これらの結果から、A549-DR細胞が産生するIL-34はがん細胞自身の生存を助ける働きも有していることが明らかとなりました。
 生体内において、抗がん剤耐性がん細胞が産生するIL-34がどのような影響を及ぼすかについてマウスモデルで解析しました。免疫不全マウスにヒト血液細胞を移植しヒト血液系をもつマウスモデルを作製してヒト肺がん細胞を移植し、抗がん剤を投与する実験を行いました。A549-DS細胞を移植したマウスの場合、予想通りドキソルビシンを投与したマウスでは投与しなかったマウスに比べ腫瘍の増大が抑えられました。A549-DR細胞を移植したマウスでは、ドキソルビシン投与の有無で腫瘍の増大に変化は見られませんでした。IL-34を発現しないように操作したA549-DR細胞(A549-DRΔIL-34細胞)を接種した場合には、ドキソルビシン投与により腫瘍の増大が顕著に抑えられることがわかりました。よって、生体内でもがん細胞の産生するIL-34ががん細胞の抗がん剤耐性に寄与していることが示されました。同時に腫瘍組織内に浸潤している血液細胞について解析したところ、A549-DS腫瘍、A549-DRΔIL-34腫瘍に比べA549-DR腫瘍では免疫抑制型マクロファージの割合が多く、生体内においても抗がん剤耐性がん細胞の産生するIL-34が免疫抑制型マクロファージを増加させていることがわかりました。
 最後に、実際にIL-34を産生するようなヒト肺がんが存在するのかどうか、ヒト肺がん手術検体について調べたところ、複数の手術検体で正常組織に比べはるかに高いIL-34発現が認められることがわかりました。更にがん組織におけるIL-34の発現の程度と生命予後の関係について解析したところ、IL-34の発現が高かった患者さんほど生命予後が不良であることがわかりました。
(今後への期待)これまで、抗がん剤耐性となってしまったがんに対する治療法の選択肢は少なく、抗がん剤抵抗性を打破する治療法の開発が望まれていました。本研究の結果から、抗がん剤耐性となったがん細胞がIL-34を産生し、そのIL-34により免疫抑制が誘導されること、さらに抗がん剤耐性にも寄与していることがわかりました。将来的には、IL-34を標的とする治療法を開発することにより、抗がん剤耐性がんに対しても有効な治療を提示できるようになると期待されます。

 

【参考図】