北海道大学 遺伝子病制御研究所

研究成果

がんの超初期段階で生じる代謝変化を世界で初めて解明

Kon S, Ishibashi K, Katoh H, Kitamoto S, Shirai T, Tanaka S, Kajita M, Ishikawa S, Yamauchi H, Yako Y, Kamasaki T, Matsumoto T, Watanabe H, Egami R, Sasaki A, Nishikawa A, Kameda I, Maruyama T, Narumi R, Morita T, Sasaki Y, Enoki R, Honma S, Imamura H, Oshima M, Soga T, Miyazaki JI, Duchen MR, Nam JM, Onodera Y, Yoshioka S, Kikuta J, Ishii M, Imajo M, Nishida E, Fujioka Y, Ohba Y, Sato T, Fujita Y.
Cell competition with normal epithelial cells promotes apical extrusion of transformed cells through metabolic changes.
Nat Cell Biol. 2017 May;19(5):530-541.
分子腫瘍分野

研究成果のポイント

  1. これまでブラックボックスであった,がん化の超初期段階で起こる現象を解明。
  2. 「ミトコンドリア機能の低下」「解糖経路の亢進」という代謝変化が変異細胞の排除を促進。
  3. 今後の「世界初のがん予防薬」の開発に期待。

研究成果の概要

独自に確立した培養細胞系とマウスモデルを用いて,正常細胞に囲まれた変異細胞において,「ミトコンドリア機能の低下」と「解糖経路の亢進」という2つの代謝変化が生じていることを突き止めました。さらに,この代謝変化が,変異細胞の周囲に存在する正常細胞からの影響によるものであり,変異細胞の体外への排除に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。これらの研究成果は,これまでブラックボックスであったがんの超初期段階で生じる現象を明らかにするものであり,「世界初のがん予防薬」の開発につながることが期待できます。

内容

(背景)がんは細胞社会の一つの細胞に変異(ミューテーション)が生じることから始まります。最近の藤田教授らの研究によって,新たに生じた変異細胞の多くは周りの正常細胞との競合の結果,体外へ排除されることが明らかになってきました。しかし,どのようにして変異細胞が排除されるか,その分子メカニズムについてはまだ多くが謎に包まれています。
(研究手法)独自に確立した培養細胞系とマウスモデルを用いて,正常細胞に囲まれた変異細胞における様々な栄養物やエネルギーなどの代謝(合成・分解)経路について解析しました。
(研究成果)正常細胞に囲まれた変異細胞において,「ミトコンドリア※1機能の低下」と「解糖経路※2の亢進」という2つの代謝変化が生じていることを突き止めました。さらに,この代謝変化が変異細胞の周囲に存在する正常細胞からの影響で生じたものであり,変異細胞の体外への排除に重要な役割を果たしていることが分かりました。興味深いことに,これらの代謝変化は,「ワールブルグ効果※3」という,がん発生の中期から後期にかけてがん細胞に生じるものと同様であることも分かりました。今回の研究によって,正常細胞が備えている「がん細胞を駆逐する能力」の一端が明らかになりました。
(今後への期待)これらは,これまでブラックボックスであったがんの超初期段階で起こる現象を明らかにした研究成果であり,新たながん研究分野の開拓につながる可能性があります。この研究成果をさらに発展させることによって,世界初の「がん予防薬」の開発へつながることが期待できます。

用語解説

1.ミトコンドリア:エネルギー(ATP)を産生する細胞内小器官。
2.解糖経路:グルコース(糖)をエネルギーに変換する反応経路。
3.ワールブルグ効果:がん化の中期から後期に生じる解糖経路の亢進。

 

【参考図】