北海道大学 遺伝子病制御研究所

研究成果

大腸がんの肝転移を促す新たな制御メカニズムを解明〜免疫チェックポイント阻害治療の最適化に期待〜

研究成果のポイント

1. 担がん生体から産生されるIL-6を介した大腸がん肝転移の促進メカニズムの解明
2. IL-6を調節することで抗腫瘍免疫細胞を賦活し、大腸がんの肝転移巣形成を抑制
3. IL-6の制御による免疫チェックポイント阻害治療の抗腫瘍効果のさらなる向上に期待

研究成果の概要

進行・再発がん患者さんの生体内では、がん細胞を排除する抗腫瘍免疫細胞が機能不全となっていることが知られています。がんの治療において再発と転移を制御することは大変重要ですが、免疫系によるがんの転移の制御メカニズムについてはあまり分かっていませんでした。本研究では、大腸がん細胞の肝転移巣形成と宿主免疫系との関連について、大腸がん肝転移マウスモデルを構築して検討しました。その結果、担がん生体内で産生される炎症性サイトカイン注1)の一つIL-6注2)が抗腫瘍免疫を抑制し、大腸がん細胞の転移巣形成を促進することを発見しました。さらに担がん環境下においてIL-6が欠損した状態では、免疫抑制性分子であるPD-L1注3)を標的とした免疫チェックポイント阻害注4)による抗腫瘍効果が増強され、肝転移モデルマウスの生存率を著しく延長することも確認しました。本研究の成果によって、今後、がん患者さんに対するがん免疫治療の最適化に繋がることが期待されます。本研究成果は、2019年9月25日(水)、アメリカ癌学会(AACR)刊行のCancer Immunology Research誌のオンライン版に先行公開されました。

Toyoshima Y, Kitamura H, Xiang H, Ohno Y, Homma S, Kawamura H, Takahashi N, Kamiyama T, Tanino M, Taketomi A.
IL6 modulates the immune status of the tumor microenvironment to facilitate metastatic colonization of colorectal cancer cells.
Cancer Immunology Research, 2019 Sep 25. pii: canimm.0766.2018. doi:10.1158/2326-6066.CIR-18-0766.

内容

【背景】 がん患者さんの治療において、再発と転移を防ぐことは重要な課題の一つですが、生体内の免疫システムによるがん細胞の再発・転移の制御についてはあまり分かっていません。一般に、担がん生体内では、がん細胞を排除する抗腫瘍免疫細胞が機能不全となっていて、近年、がん患者さんの免疫抑制状態を改善する免疫チェックポイント阻害治療薬が開発され、多くの患者さんに適用されてきましたが、全てのがん患者さんに有効ではありません。このことはがん患者さんの生体内では、複数の免疫抑制メカニズムが存在し、がん細胞の免疫逃避によって再発・転移が生じてしまう可能性を示しています。これまで私たちの研究グループでは、担がん生体で産生されるIL-6が、樹状細胞注5)の成熟・活性化を抑制し、抗腫瘍エフェクターT細胞注6)の導入による、がん細胞の排除を阻害することを明らかにしてきました(参考図1)。そこで、本研究では、IL-6による抗腫瘍免疫と大腸がんの再発・転移との関係を明らかにするとともに、新たながん免疫治療の開発への応用を試みました。

【研究手法】 本研究では、マウス大腸がん細胞を野生型BALB/cマウスおよびIL-6欠損マウスの脾臓内移植し、その後、肝臓で転移巣が形成される大腸がん肝転移モデルを構築して、担がん生体で産生されるIL-6と大腸がんの再発・転移との関係について検討しました。また肝転移巣の形成に関与している免疫担当細胞やその制御分子を同定するために各種免疫細胞や標的分子を除去・中和する試薬、抗体を使用して検証しました。最後に、大腸がん肝転移モデルマウスに抗PD-L1抗体を投与し、IL-6の産生と免疫チェックポイント阻害治療による抗腫瘍効果との関連も検討しました。

【研究成果】 大腸がん肝転移モデルにおいて、野生型マウスに比べIL-6欠損マウスでは、大腸がん細胞の肝転移巣の形成が明らかに低下し、CD8陽性キラーT細胞を除去すると、その転移巣形成の抑制効果が阻害されることを見出しました。またIL-6欠損条件下では、細胞傷害性分子であるパーフォリンやグランザイムBを産生する抗腫瘍エフェクターT細胞やMHCクラスIIを高発現し、IFN-α/βやIL-12を発現する成熟型の樹状細胞が、より高頻度に肝転移巣に集積しているとともに、IFN -α/βの受容体の阻害およびIL-12の中和により、本モデルにおける肝転移巣の形成が増悪することを確認しました。さらに、抗PD-L1抗体を肝転移マウスに投与する免疫チェックポイント阻害治療を実施したところ、野生型に比べて、IL-6欠損マウスでは著しい生存率の延長効果を認めました。

【今後への期待】 本研究の結果から、担がん生体で産生されるIL-6は樹状細胞の成熟・活性化を抑制し、抗腫瘍エフェクターT細胞による大腸がん細胞の排除がなされないことから、大腸がん細胞の肝転移巣の形成が促進されることが考えられます(参考図2)。従って、今後、担がん生体で産生されるIL-6を阻害することで、大腸がんの再発・転移が抑制されることが期待されます。さらに、IL-6を制御することにより、免疫抑制分子PD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害治療の最適化にも繋がると考えています(参考図3)。 本研究は、北海道大学遺伝子病制御研究所共同利用・共同研究拠点「細菌やウイルスの持続性感染により発生する感染癌の先端的研究拠点」の成果として発表されました。

【用語解説】
注1)サイトカイン:細胞が分泌して、自身あるいは他の細胞機能を調節する機能のある比較的小さなタンパク質群。標的細胞の受容体を介して、分化、誘導や活性化、あるいは細胞死などを誘導する。
注2)IL-6:代表的な炎症性サイトカイン。生体内での炎症や免疫応答、担がん状態によって樹状細胞や間質細胞あるいはがん細胞など様々な細胞から分泌され、標的細胞の機能を調節する。がん細胞の悪性化、自己免疫疾患にも関与する作用も報告されている。
注3)PD-L1:免疫応答を抑制する分子の一つ。主にがん細胞や樹状細胞に発現し、T細胞に発現しているPD1分子と結合して、T細胞の活性化を抑制する。
注4)免疫チェックポイント阻害:担がん状態で免疫細胞やがん細胞に発現しているPD-1、PD-L1やCTLA4などの免疫抑制分子を、それらに対する抗体を使用して阻害すること。その結果、免疫抑制状態が改善され、抗腫瘍エフェクター細胞の活性化により、がん細胞を生体から排除することができるため、抗体などの免疫チェックポイント阻害剤・医薬として、がん治療に使用されている。
注5)樹状細胞:免疫担当細胞の一つ。MHCクラスII分子に結合した抗原ペプチドをT細胞に提示して活性化する働きのある代表的な抗原提示細胞。成熟した樹状細胞はMHCクラスII分子を高発現するとともに、IFN-α/βやIL-12などのサイトカインを産生し、T細胞や他の免疫担当細胞を強力に活性化する。
注6)エフェクターT細胞:細胞表面にCD4分子を発現し、樹状細胞上のMHCクラスII分子に提示された抗原を認識して活性化するヘルパーT細胞とCD8分子を発現し、MHCクラスI分子に提示された抗原を認識して活性化するキラーT細胞とがある。ヘルパーT細胞は、IL-2やIFN-γといった様々なサイトカインを分泌し、キラーT細胞やさらに他の免疫細胞を活性化させる働きをもつ。キラーT細胞は活性化するとパーフォリンやグランザイムBなどの細胞を傷害する分子を産生誘導し、標的細胞を殺傷する働きをもつ。

図1:担がん生体において産生されるIL-6は、転写活性化因子の一つSTAT3の活性化を介して樹状細胞の抗原提示能やIL-12などのサイトカイン産生能を抑制することで、ヘルパT細胞のサイトカイン産生を低下させるとともに、最終的にがん細胞を殺傷するキラーT細胞の働きを減弱させる。


図2:IL-6による抗腫瘍エフェクター細胞の抑制を介した大腸がん細胞の肝転移巣形成メカニズム。がん微小環境で産生されるIL-6は、樹状細胞やマクロファージによるIFN-α/βやIL-12の産生を抑制し、キラーT細胞のがん細胞への攻撃を減弱させる。その結果、がん細胞は、肝臓にてより転移巣を形成することができる。


図3: IL-6欠損条件は抗PD-L1抗体を使用した免疫チェックポイント阻害治療や免疫アジュバント治療の有効性を促進する。