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研究成果

Ohtake J, Kaneumi S, Tanino M, Kishikawa T, Terada S, Sumida K, Masuko K, Ohno Y, Kita T, Iwabuchi S, Shinohara T, Tanino Y, Takemura T, Tanaka S, Kobayashi H, Kitamura H.
Neuropeptide signaling through neurokinin-1 and neurokinin-2 receptors augments antigen presentation by human dendritic cells.
J Allergy Clin Immunol. 2015 Sep 11. pii: S0091-6749(15)01098-2. doi: 10.1016/j.jaci.2015.06.050. [Epub ahead of print]
免疫機能学分野

【研究成果のポイント】
  1. 神経ペプチド注1の受容体を介したヒト樹状細胞注2の新たな活性化メカニズムの解明。
  2. 神経ペプチドシグナルを調節することでシラカバ花粉に特異的な免疫応答の制御も可能。
  3. 難治性喘息などの呼吸器疾患に対する新規治療薬・治療法開発への応用に期待。

【研究成果の概要】
喘息疾患に対しては,一般に抗アレルギー薬やステロイドの投与が行われていますが,患者さんによっては治療に抵抗性を示したり,ウイルスなどの感染により慢性化・重篤化することもあります。本研究で,ウイルス・細菌感染を模倣する刺激後,STAT1注3の活性化を介してヒト樹状細胞に神経ペプチド(サブスタンス P注4・ニューロキニンA注5)の受容体(NK1R・NK2R)が発現誘導されること,神経ペプチドシグナルにより樹状細胞の抗原提示能が制御されること,シラカバ花粉抗原特異的ヘルパーT細胞注6の分化・誘導および活性化に関与すること,さらに喘息・過敏性肺臓炎注7の患者さんの肺組織に浸潤している細胞にNK1R・NK2Rが発現していることを新たに発見しました。
 本研究成果により,樹状細胞における神経ペプチドのシグナル伝達経路を遮断することで過剰な免疫応答を抑制し,喘息患者さんの病態改善や慢性化・重篤化の予防が可能と考えられ,今後,新しい難治性炎症性疾患の治療法開発への応用も期待されます。

【背景】
現代社会において,花粉症,アトピー,喘息などアレルギー性疾患のみならず潰瘍性大腸炎などの難治性・慢性炎症性疾患が年々増加し,その発症メカニズムの解明と病態の改善・治療の開発を目指した研究は社会的なニーズの一つとなっています。
 現在,喘息などの呼吸器疾患の治療として,一般に抗アレルギー薬やステロイドの投与が行われていますが,患者さんによってはこれらの治療薬に抵抗性を示したり,ウイルスや細菌の感染よって慢性化・重篤化することもあります。従って,患者さん一人ひとりの病気の状態や進行に応じた適切な治療が大切ですが,難治性の呼吸器疾患に対する治療法は,未だ十分に確立されてはいないため,その発症・重篤化に関する詳細なメカニズムの解明と新しい医薬・治療法の開発が望まれています。
 神経ペプチドは,脳や神経細胞が刺激を受けると分泌され,VIP注8やタキキニン類(サブスタンスPやニューロキニン等)があります。一般に,サブスタンスPは血管の透過性を亢進し,ニューロキニンは気道の平滑筋を収縮することが知られています。これまで,ステロイド抵抗性のTh1型喘息マウスモデルにおいて,ニューロキニンAの受容体であるNK2Rの拮抗阻害薬の投与が気道過敏性を抑制することを明らかにしました。この発見は,神経ペプチド受容体を介したシグナルの調節によって,難治性炎症性疾患の改善が期待できることを示しています。

【研究手法】
本研究に同意の得られた健常人より末梢血リンパ球を回収し,樹状細胞およびシラカバ花粉抗原に特異的に反応するヘルパーT細胞を誘導しました。誘導されたヒト樹状細胞について,LPS,poly I:C,IFN-α/β, またIFN-γによる刺激を行ない,その細胞表面分子の発現パターンをフローサイトメトリーにて,遺伝子発現レベルを定量PCR法にて,また樹状細胞によるT細胞の活性化能を試験管内評価法にて解析・評価しました。また,喘息および過敏性肺臓炎の患者さんの肺組織におけるNK1R・NK2Rの発現および樹状細胞・マクロファージの浸潤を免疫組織化学染色によって確認しました。

【研究成果】
ヒト樹状細胞において,NK1R とNK2Rの遺伝子発現が,IFN-β,IFN-γ,LPSあるいはpoly I:C刺激後,STAT1依存的に誘導されることが分かりました。またpoly I:C刺激することにより発現上昇するHLAクラスIIおよび共刺激分子が,NK1RまたはNK2R特異的な阻害剤の添加により抑制されることも確認しました。一方,NK1RやNK2Rの拮抗阻害薬の添加によって,シラカバ花粉の抗原に特異的に反応するヘルパーT細胞の分化・誘導や,抗原刺激によるTh1型およびTh2型サイトカイン産生が抑制されることも確認しました。さらに,喘息および過敏性肺臓炎の患者さんの肺組織に浸潤している樹状細胞・肺胞マクロファージにおいてNK1RおよびNK2Rの発現が確認されました。

【今後への期待】
本研究成果をもとに,ヒト樹状細胞における神経ペプチドのシグナル伝達経路を遮断することで過剰な免疫応答を抑制し,喘息や過敏性肺臓炎患者さんの病態改善や慢性化・重篤化を予防することが可能と考えられ,今後,難治性炎症性疾患の新しい治療法開発への応用も期待されます。

【用語解説】
注1)神経ペプチド:一般には脳や神経細胞が刺激を受けると分泌されるペプチド。通常,神経末端から遊離され,副交感神経のVIP,知覚神経C繊維のタキキニン類(サブスタンスP,ニューロキニン,カルシトニン遺伝子関連ペプチドなど)がある。

注2)樹状細胞:代表的な抗原提示細胞の一つ。外来異物やウイルス感染細胞、腫瘍細胞などの自己にとって好ましくない細胞を自身に取り込み、構成成分であるタンパク質を抗原ペプチドに断片化し、細胞上のMHCクラスII分子やクラスI分子に結合し、ヘルパーT細胞やキラーT細胞に抗原を提示することで、抗原特異的に反応するT細胞を分化誘導・活性化する。

注3)STAT1:転写活性化因子(Signal Transducer and Activator of Transcription)の一つで,タイプIインターフェロンやIFN-γなどのサイトカインが細胞の受容体に結合して刺激すると,STAT1がリン酸化されて細胞の核内に移行し,様々な標的遺伝子を発現・誘導する。

注4)サブスタンスP:タキキニン類の一つ。P物質とも呼ばれ、気道が刺激を受けると知覚神経末端から放出される。血管拡張作用,気道過敏性の亢進作用が知られている。マスト細胞にも作用し、ヒスタミンの遊離を引き起こす。ニューロキニン受容体1(NK1R)を介して細胞機能を制御する。最近、マクロファージにも作用し、免疫機能の調節作用も報告されている。

注5)ニューロキニンA:タキキニン類の一つ。気道が刺激を受けると知覚神経末端から放出される。気道平滑筋に対しては収縮作用が知られている。サブスタンスPに比べ、その作用は不明の部分も多い。ニューロキニン受容体2(NK2R)を介して細胞機能を制御する。

注6)ヘルパーT細胞:胸腺(Thymus)に由来するCD4陽性の免疫担当細胞。樹状細胞によって抗原を提示されると免疫系を活性化する様々なサイトカインを産生する。IL-2,IFN-などType Iサイトカインを高産生し、感染防御や抗腫瘍免疫応答に重要なCD8陽性キラーT細胞を活性化するTh1細胞とIL-4、IL-5、IL-13などType IIサイトカインを高産生し、寄生虫感染の防御や抗体産生細胞の活性化を促し、液性免疫に関与するTh2細胞などがある。過剰なTh1細胞の活性化は、自己免疫疾患や肝炎などの発症を引き起こす一方、過剰なTh2細胞の活性化は、喘息・アレルギー性疾患の発症を引き起こす。

注7)過敏性肺臓炎:アレルギー性呼吸器疾患の一つ。真菌(カビやキノコの胞子),動物の排泄物,化学物質や粉塵などの抗原を繰り返し吸引・暴露されることにより発症する。発熱,せき,呼吸困難などの症状が認められ,慢性化すると抗原の暴露がなくても症状がでるようになる。また重篤化するとTh1型の免疫応答も確認される。

注8)VIP:血管作動性ペプチド(Vasoactive intestinal peptide)は,28個のアミノ酸からなる神経ペプチドで,血管の平滑筋には強力な拡張作用を示し,気道の平滑筋には強力な弛緩作用を示すことが知られいている。

【概念図】

神経ペプチド(サブスタンスP・ニューロキニンA)受容体の発現による樹状細胞の活性化を介した抗原特異的T細胞の活性化メカニズム。神経ペプチドシグナル伝達経路を阻害剤などで遮断すると,ウイルス・細菌感染による喘息や過敏性肺臓炎など呼吸器疾患の慢性化・重篤化が予防・改善されることが期待できる。
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