YASUの呟き No. 15


論文がRejectされた時。
〜戦うべきか、否か、それが問題だ〜
論文を投稿して、ドキドキしながら待つ。おっ、返事が返ってきた!おそるおそるメールを読み進めると、
’I am sorry that we cannot be more positive on this occasion’という文章が目に飛び込んでくる。ああ、Reject。心が塞がれるような瞬間。研究者なら誰もが経験したことがあるだろう。「ウーム仕方ない、他のジャーナルに出し直しか」と諦める。それが普通のレスポンス。でも、そこで挫けずに戦うことで、道が拓けることもある。僕の拙い経験を以下に3つ紹介します。

1)Crochet et al., 2007,Mol. Cell Biol., 27 (10), 3804-3816.

これは、ロンドンヤスラボの2つ目の論文。Casein kinase 1が細胞間接着を負に制御するという内容。ポスドクのソフィーが始めたプロジェクトだったが、彼女が母国のフランスで独立ポジションを得たため、ポスドクのアンジェリカ(情熱的なスペイン人)が引き継いでプロジェクトをまとめ、論文をMCBに投稿。

2006年10月3日、最初のDecision mailが帰ってきた。おおっ、reviewerのコメントに応えることができればrevised manuscriptをre-reviewすると書いてある!Reviewerは2人。Reviewer 1は7つのコメント、まずまずreasonable。問題はReviewer 2。19もコメントがある。しかも、そのほとんどが論文の主眼と直接関係のない内容。うーん。でも、しゃーない、なるべく応えていくしかないなあ。
それから必死こいてアンジェリカとヤス(あの頃はアクティブにベンチで働いていた)は追加実験に明け暮れ、ほとんどのコメントに応えて、年末に再投稿。しかし。。。。

2007年1月10日。RejectのDecisionが届く。Reviewer 1はacceptしたが、Reviewer 2がまだstrongly negativeと。Editorは「Reviewer 2のコメントはreasonableでそれを満たすには、まだ多くのkey experimentsが必要であり、a more specialized venue (e.g. JBC)が適切だと思う」と。文尾に ‘I am left with not other choice’、と記されている。Reviewerのコメントを読んでみる。Reviewer 1は「しっかり追加実験をしており、とてもいい内容になった」と文句なしのアクセプト。しかしReviewer 2は、いちゃもんとしか言いようのない理由で追加実験のデータをけなし、あらたに8つのコメントをつけている。うーむ、これはどうしようもないなあ。諦めるしかないか。アンジェリカにDecision mailをForwardして「とっても残念だった。どこに出し直すか、ディスカッションしましょう」とメールした。
すぐにアンジェリカが飛んできた。怒りに満ちた目をしている。そして、一言。
「ヤス、戦って!!」
「でも、Editor自身が、このようにnegativeなコメントを書いているから、Decisionが覆ることはないんじゃないかなあ。」
「ううん、ヤス、戦って。あんなに実験をしたのに、こんなの許せない。納得できない。戦うのよ。」
あかんのとちゃうかなあ、とも思ったが、アンジェリカの怒りに背中を押されて、9行に渡る抗議のメールを送った。「Reviewer 2のコメントのほとんどはreasonableではなく納得できない。MCBは通常3人のreviewerなので、もう一人にreviewをまわして、fairなdecisionをして欲しい」、と。
すると、Editorから返事が来た。「Reviewer 2のコメントに対するrebuttalを送って欲しい。もう一人のReviewerに論文を回すことにします」。おおっ!!あんなにnegativeな感じでrejectしたのに、結構簡単に撤回したやん。Editor自身も、Reviewer 2のコメントに対して、少し理不尽な点を感じていたのかもしれない。早速、rebuttal letterを送り、反応を待つ。すると。。。。

2月26日。Decision mailが届く。おそるおそる、文章を読み進める。
’ I heard back from the third reviewer, who has recommended that your paper be accepted. So while the negative reviewer still remains negative, I have decided to accept your manuscript.’
何と、逆転ホームラン!追加実験もなく、論文はあっさりとアクセプトされた。Rejectが必ずしも、Final answerでないことを初めて知った。
アンジェリカの怒りが論文の運命を大きく変えた。’Yasu, fight back for me!’ 彼女の叫びが今でも鮮やかに脳裏に蘇る。


2) Saitoh et al., 2017, Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA,114 (12), E2327-E2336.

博士3年の齋藤さん(通称:さやか)が4年間かけてまとめた論文。正常細胞に囲まれたRas変異細胞ではエンドサイトーシスが亢進し、それが変異細胞の上皮層からの排除を正に制御する、という内容。データもまとまっており、いい感じに仕上がった。満を持してPNASに投稿。
2016年3月16日。Decision mailが届いた。

’…I am sorry to say that the PNAS Editorial Board has declined your manuscript for publication……… After careful consideration, the editor decided that we cannot accept your manuscript. Of course, this terminates your PNAS License to Publish and you are free to publish elsewhere.’
うーん、完全なRejectだ。Reviewerのコメントを読んでみる。Reviewerは2人。Reviewer 1はものすごく好意的で、テキストをいじるだけでいいと。Reviewer 2もそこそこ好意的に見える(Overall, this is an interesting study with a number of noteworthy observations)。10個コメントがあるが、しっかりと応えなければならない追加実験は6つほど。ん?これで、Rejectなの?どうしてreviseを許されなかったのか?Editor自身があまりこの論文を買っていないのかもしれない。でも、これでRejectなのは、フェアじゃないぞ!

さやかともう一人のスーパーバイザーの助教の丸山君(通称:剛)と協議する。
「いやあ、Rejectはちょっと納得できへんなあ。これは抗議(アピール)するべきやと思うけど。」
「御願いします!」とさやか。
「よし、戦うか!」
ということで、「追加実験にある程度の時間はかかるが、Reviewer 2のコメントにはほとんど応えることができるので、reviseするのを許して欲しい。」と正式にアピールをした。すると、「協議をするのでしばらく待て」と。

3月29日。返事が返ってきた。
’ If you wish to appeal the decision, please submit a full point-by-point response to the reviewer comments once you have obtained the data requested. We will forward your response to the Editor for consideration at that time. Please note that we cannot guarantee success, and the Editor may choose to decline your request after reading your full response. Do not resubmit your manuscript without the explicit permission of the editor.’
よし、まだまだチャンスが出てきたぞ。まだどうなるかは全く分からないけれども。
さやかの就活が始まったため、追加実験を進めることがなかなかできなかったが、就職が決まってから本格的にリバイス実験を始め、数ヶ月後に主要なデータを出すことができた。そこで、まずは、Reviewer 2のコメントにどのようなデータをつけて応えることができるか、実データを示しながらpoint-by-point responseを作成し、10月8日にメールで送付した。

11月22日。長らく待った末に、メールが来た。
‘Thank you for your comments regarding the decision to decline your paper for publication in PNAS. The editor has decided to undertake a further evaluation of your work. Please keep in mind that there is no guarantee the original decision will be overturned. In order to initiate the re-evaluation, we ask that you submit your revised manuscript files and point-by-point rebuttal letter.’
ああ、リバイスが許された!論文が生き返った瞬間だった。

その後、さやかの頑張りと共同研究者のサポートを得て、超解像度顕微鏡によるデータなどをつけて論文を再投稿した。すると、Reviewer 1, 2に加えて、新たなReviewer 3による審査の結果、少しの追加実験がReviewer 2から要求されたものの、Reviewer 1, 3がアクセプトをしたこともあって、最終的に2017年1月26日、論文はアクセプトされた。

Rejectされた時に、Editorからの許しを得ずに追加実験をして再投稿するのは、僕の経験上、勝率は極めて低い(というか勝ったことはない)。今回のように、正式にアピールをして、reviewerのコメントに対するpoint-by-point responseを送って、Editorからの許しを得てから再投稿すべきであろう。
ただ、問題は、アピールにかかる時間である。アピールはジャーナルにおいてpriorityが低いためか、やたらに時間がかかる。アピールをするか、それとも他のジャーナルに出し直すか、その判断はなかなか難しい。この論文でも、残念ながら、論文のアクセプトが卒業のための博士論文の提出期限に間に合わず、さやかの博士号取得は3ヶ月遅れてしまった(さやか、すまんかったな)。


3) Kon et al., 2017, Nature Cell Biology, 19(5):530-541.

助教(現講師)の昆君(通称:昆ちゃん)の論文。正常細胞に囲まれたRas変異細胞でWarburg効果様の代謝変化が起こり、それが変異細胞の正常層からの排除を促進する、という内容。また、世界初の細胞競合モデルマウスにて、in vivoにおいてもRas変異細胞が腸管上皮層から逸脱することも示した。博士1年(当時)の石橋君(通称:公二朗)の助けも得て、多くのデータを包含した超力作である。気合いを入れて、Natureに投稿。NatureからReviewに回したとの連絡があり、「どんなコメントがくるんだろうか」と返事を待つ。

2016年3月29日、NatureからDecision mailが届く。Reviewerは4人!
’ While they find your work of potential interest, as do we, they have raised important concerns that in our view need to be addressed before we can consider publication in Nature. ………. Should further experimental data allow you to address these criticisms, we would be happy to look at a revised manuscript’
よしっ、リバイスが許されたぞ!でも、Reviewerが4人もいるので、コメントは合計27。追加実験は全部で23つと膨大だ。昆ちゃんと公二朗が手分けをして追加実験にあたる。途中、様々な困難もあったが、半年間ほどかけて、4人のreviewerのほとんどのコメントに応えることができた(どうしても応えることのできないものが3つほどあったが)。この間、昆ちゃん、公二朗は、本当に頑張ったと思う。二人の努力に心から敬意を表したい。また、多くの共同研究者の皆様に多大なサポートを頂きました。ほんとうにありがとうございました。
満を持して、10月13日に再投稿。そして、運命の日を待つ。今回はいけるんじゃないか、と大きな期待。昆ちゃんは、もう通ったもの、と思っているよう。大丈夫かなあ。。。

2016年11月9日。Decision mailがNatureから届いた。
‘Your manuscript has now been seen by 4 referees. In the light of their advice we have decided that we cannot offer to publish your manuscript in Nature. While the referees appreciate the revision, your work of some interest, they still have significant concerns about the strength of the novel conclusions that can be drawn at this stage. ……I am sorry that we cannot be more positive on this occasion.’
目の前が真っ暗になる。重い塊のようなものが胸にズシンとのしかかる。ダメだったか。。。。期待が大きかっただけに、落胆も途方もなく大きい。
Reviewerのコメントを読む。Reviewer 1はアクセプト。Reviewer 2は比較的簡単な追加実験を2つ要求。Reviewer 4はテキストを少し修正することを求めている。問題は、Reviewer 3。最後まで応えることができなかった、かなり難しいことを要求(変異細胞におけるATP量と逸脱の関係を直接的に示せ)。正直言って、Warburg 効果の本質すらまだ分かっていないのに、このコメントは異常にきつ過ぎると言わざるを得ない。
あんなに二人は頑張って追加実験をしてくれたのに。悔しい。本当に悔しい。
何とかならないものか。
昆ちゃんと話す。
「どうしようか。あきらめてScienceに出し直す?」
「ヤスさん、戦ってもらえませんか?」
アンジェリカとのやり取りが脳裏に蘇る。
「そうだね。とりあえず、ダメもとでアピールしてみようか。でもアピールは時間がかかると思うけれども。」
「御願いします。」

11月14日にメールでアピール文を送付。
「Reviewer 2と4のコメントには応えることができる。Reviewer 3はそもそも細胞競合の意義をしっかりと理解していない。また、求めている実験はあまりにもheavyすぎて、reasonableとは思えない。そもそも、全てのreviewerが代謝の専門家で、この論文は細胞競合の研究者に評価されていない。この論文を適切に評価するために、reviewer 3の代わりに、細胞競合の専門家に送ってからfinal decisionを下してくれないか。」
ヤス、必死のアピールである。

11月28日。Natureから返事。
‘………. Now that I have had a chance to discuss the matter carefully with my colleagues, I am sorry to have to tell you that we cannot reverse our original decision. …….. While we appreciate that some of the technical concerns could be addressed, we don't think this would be sufficient given the lack of enthusiasm from the referees. …..’

ああ、ダメだったか。全身から力が抜けていく。 おそらくReviewer 3は代謝研究の大物なのだろう。そのコメントは覆せないということなのか。
しかし、続きの文章があった。

‘While we cannot offer further consideration of the work in Nature, we have discussed the manuscript with our colleagues at Nature Cell Biology and they find the study interesting and potentially appropriate for their journal. They would be happy to consider a revised version.’
しかもNature Cell Biologyへの再投稿には、Reviewer 3のコメントには応えなくてもいい、と書いてある。
アピールをして粘ったことによって、NatureのEditorがNature Cell BiologyのEditorとこの論文について話してくれたようだ。かなり頑張ってリバイスされた論文をリジェクトするのは忍びない、と思ったのか。あるいは、この論文の価値をしっかりと評価してくれていたからか。

その後、昆ちゃんとディスカッションした結果、Scienceを諦めて、Nature Cell Biologyに論文を送ることに決定。Reviewer 2, 4のコメントのために少しだけ追加実験をして、テキストを修正した後、Transfer systemを使ってNature Cell Biologyに再投稿。その後、論文はReviewer 2、4のみに回り、追加実験もなく、比較的すんなりとアクセプトされた。

Natureとの戦いには、またしても敗れてしまった。これは、僕自身の実力がまだまだ足らないからなのだろう。でも、アピールをすることによって、Nature Cell BiologyのEditorの興味を引くことができたのは、不幸中の幸いであった。



論文がRejectされた時、戦うべきか否か、それは大きな問題である。どうしたらいいのか、僕にもまだよく分からない。もちろん、上には記していないが、Reject後に戦って、結局負けた経験も少なくはない。でも、これまでの経験で、Reject letterは完全な終わりではなく、簡単に諦めない方がいいというのはよく分かった。納得できないときは、やっぱり戦うべきかな。

タフでなければ研究者として生きていけない。タフでなければ研究者の資格がない(?)。もちろん優しさも必要だが。




updated : 2017/08/14