IRFファミリー転写因子

 インターフェロン(IFN)は抗ウイルス作用を有するサイトカインとして知られ、I型からIII型の3つに分類される。ウイルス性肝炎の治療として臨床応用されているIFN-α/βはI型に属し、ウイルス感染細胞において産生される。この転写制御機構の研究過程においてIFN-β遺伝子の発現調節領域に結合する転写因子として谷口維紹氏(現、東京大学)のグループによって最初に同定されたのがIFN調節因子(IRF1である。現在、ヒトやマウスではIRF1からIRF9という9つのメンバーから構成されるファミリーを形成している。IRFファミリーメンバーは共通してN末端側に保存された5つのトリプトファンの反復配列という特徴的な構造のDNA結合領域を有し、IRF-E*ISRE**といった特定のDNA配列に結合することで標的遺伝子の発現を導く。

 遺伝子欠損マウスの解析により、IRF-3IRF-7がウイルス感染によるIFN-α/β遺伝子発現誘導に必須の因子であることが示された両因子はウイルス感染によって活性化したIRFキナーゼを介してリン酸化を受けることで核移行し、IFN-α/β遺伝子の発現を誘導する。近年、このIFN-α/β発現誘導がToll様受容体に代表される自然免疫系における微生物認識センサー分子を介していることが判明した。樹状細胞のサブセットの1つである形質細胞様樹状細胞(pDCs)でのTLR9サブファミリメンバーを介するIIFN産生にはIRF7が選択的に関与することが示されているが、このpDCsからの産生されるIFNと全身性ループスの病態との関連性が指摘されている。特定の細胞種ではIRF1/4/5/8センサー分子を介したシグナル経路に関与し、IFN-α/βのみならず炎症性サイトカインやケモカイン等の遺伝子発現を制御している。IIFN受容体シグナルに関与するメンバーとしてはIRF9ISGF3***転写複合体の構成因子として機能する一方、IRF2はその負の転写制御因子である。IRF2遺伝子欠損マウスでは、ポリクローナルなCD8+T細胞の異常活性化による炎症性皮膚病変を生じる。その他、抗原提示細胞の機能をはじめ、樹状細胞、NK細胞、ヘルパーT細胞の分化やB細胞の成熟過程など免疫系の多局面において特定のIRFメンバーの役割が報告されている。このような宿主でのIRFsの役割に対し、ヒトヘルペスウイルス8型はウイルスホモローグv-IRFsを発現して免疫回避することが知られている。

 一方、IRF1IRF5DNA損傷時のアポトーシス誘導や細胞周期の調節作用を含め、癌化の制御にも関与しており、血液系腫瘍や固形癌において遺伝子変異や発現異常の報告がある。多発性骨髄腫の細胞では染色体転座によるIRF4の過剰発現が認められる。IRF8欠損マウスはヒト慢性骨髄性白血病に類似した病態を呈し、IRF8は癌抑制因子としても位置づけられている。口蓋や顔面の発生に関与するIRFもあり、先天性口唇口蓋裂症候群(Van der Woude症候群)の患者ではIRF-6遺伝子の変異が報告されている。

 このようにIRFsは生体防御系での役割を主体とする多彩な役割を担っており、感染症や自己免疫疾患、炎症性疾患、がんの病態制御としての標的分子としての可能性も期待される。

(*IRF-responsive element, **IFN-stimulated response element, ***IFN-stimulated gene factor 3)

 

<文 献>

1.髙岡晃教.IRFファミリーと炎症性サイトカイン.感染・炎症・免疫 2006; 36: 10-26.

2.Taniguchi T, et al. IRF family of transcription factors as regulators of host defense. Annu Rev Immunol 2001; 6: 623-655.

 

北海道大学遺伝子病制御研究所分子生体防御分野・髙岡晃教)