【研究成果】iPS細胞から免疫寛容を誘導する細胞を作製(免疫生物分野)

清野研一郎教授(免疫生物分野)、村田智己氏(大学院医学院博士課程(当時))らの研究グループは、iPS細胞から造血幹・前駆細胞(iPSC-induced Hematopoietic Stem/Progenitor Cell: iHSPC)を分化誘導し、同細胞を用いて移植に伴う拒絶反応を制御することに成功しました。

現在行われている臓器移植では、ほとんどのケースでドナー(提供者)とレシピエント(受給者、移植患者)の間で免疫に関する遺伝子型が異なるため、拒絶反応が起きてしまいます。そのため、レシピエントは免疫抑制剤を生涯に渡って服用する必要があります。iPS細胞を用いた移植でも、ドナーとレシピエントが異なる場合(他家移植)、同様に拒絶反応が起きることが問題とされていました。

研究グループは、マウスを用いた実験で、ドナーとなるiPS細胞に造血に関わる因子(転写因子)を幾つか導入し、iHSPCを分化誘導することに成功しました。幾つかの前処置の後、他家のレシピエントマウスにこのiHSPCを注射したところ、20週間以上にわたってiHSPC由来の細胞が体内で生存していることが判明しました。このiHSPCを注射されたマウスにドナーiPS細胞と同じ遺伝子型の皮膚、またiPS細胞そのものを移植した場合、免疫抑制剤の投与なしに生着しました。

移植医療において拒絶反応の制御は最大の課題の一つです。今回iPS細胞から免疫寛容を誘導できる細胞が作製されたことで、今後の移植医療、特にiPS細胞を用いた移植医療への応用が期待されます。

なお、本研究成果は、2023年5月25日(木)公開のAmerican Journal of Transplantation誌に掲載されました。

論文名: Induced pluripotent stem cell–derived hematopoietic stem and progenitor cells induce mixed chimerism and donor-specific allograft tolerance
(iPS細胞由来造血幹・前駆細胞は混合キメラ状態並びにドナー特異的移植免疫寛容を誘導する)
著者名: 村田智己1, 2、羽馬直希1, 2、鎌谷智紀1, 2、森 淳祐1、大塚 亮1、和田はるか1、清野研一郎11北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野、2北海道大学大学院医学院)
雑誌名: American Journal of Transplantation(移植学の専門誌)
DOI: 10.1016/j.ajt.2023.05.020

 

2023年06月15日|お知らせ:2023年, 研究成果