【研究成果】がんに対する分子標的薬PARP阻害剤の治療抵抗性のメカニズムを解明 ~がん微小環境を標的とした新しい治療法開発に期待~

北海道大学遺伝子病制御研究所 病態研究部門免疫生物分野の中村貴香氏、梶原ナビール氏、清野研一郎教授らの研究グループは、乳がんや卵巣がんに対して用いられる分子標的薬PARP(poly[ADP]-ribosepolymerase)阻害剤がその効果を発揮するかどうかについて、がん微小環境に存在するサイトカインIL-34が鍵を握っていることを世界で初めて明らかにしました。

一般的に細胞のDNAが損傷されると、PARPやBRCA1/2という分子の働きにより修復されることが知られています。一方、BRCA1/2が機能しない細胞にPARP阻害薬を投与すると、DNA修復機能が2種類とも働かなくなり、その結果「合成致死」と呼ばれる細胞死が誘導されます。この原理をがん細胞へ応用したものがPARP阻害剤であり、分子標的薬と呼ばれる比較的新しい薬剤の一つとなります。PARP阻害剤は非常に効果の高い薬剤である一方、次第に効果が失われてしまう現象(治療抵抗性)が出現するという問題がありました。研究グループは、今回新たに聖マリアンナ医科大学産婦人科学教室(鈴木直教授)との共同研究により、そのメカニズムの一端を解明しました。

研究グループは以前より、がん細胞が産生するサイトカインIL-34が各種治療法にどのような影響を及ぼすか注目してきました。今回、マウスがん細胞を用いた実験で、IL-34を発現する腫瘍ではBRCA1/2が機能しない場合でもPARP阻害剤の効果が見られないことを初めて発見しました。その際の腫瘍内の状態を詳しく調べると、Xcr1というマーカー分子を発現している樹状細胞の数が抑えられ、その結果CD8キラーT細胞が十分に働いていないことが判明しました。この現象は、がん細胞からIL-34を産生しないようにすると解消し、PARP阻害剤の効果も復活することが分かりました。また、臨床の漿液性卵巣がん患者について調べると、IL-34の発現が高い患者群で予後が悪いことも分かりました。以上から、PARP阻害剤の治療効果を高めるには、IL-34あるいは関連分子を標的にした新たな補助療法を加えることが有効であるという新規治療コンセプトが提示されました。

本研究成果は、2022年12月21日公開のJournal of Gynecologic Oncology誌にオンライン掲載されました。
また、本研究は遺伝子病制御研究所共同利用・共同研究拠点の支援により行われました。

URL:https://ejgo.org/DOIx.php?id=10.3802/jgo.2023.34.e25

2023年02月21日|お知らせ:2023年, 研究成果