日本ウイルス学会北海道支部
会報 「研究室紹介」
北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野
Division of
Signaling in Cancer and Immunology, Institute for Genetic Medicine, Hokkaido
University
教授
髙 岡 晃 教
Akinori Takaoka
予てから生まれ育った北海道の地を拠点として仕事を展開したいと思っておりました。幸運にも今年(平成19年)の5月に北海道大学
遺伝子病制御研究所(現、上出利光所長)に研究室を構える機会を頂きました。この遺伝子病制御研究所は、実に80年近くもの長い歴史がありまして、このような研究所に着任させていただけることになりましたことは大変光栄でございます。本研究所は、平成12年に免疫科学研究所と医学部附属癌研究所の2施設が組んで新たに設置された研究所で、前者は昭和16年に遡ることができる結核研究所が前身であり、後者は昭和37年に設置された医学部附属癌免疫病理研究所が前身であります。このような背景から、本研究所に所属する各分野の教室は北海道大学医学部管理棟を挟んで北研究棟と中研究棟の2箇所に分かれて存在しておりますが、現在北研究棟の改修工事を行っておりまして、平成20年春には全ての所属研究室が北研究棟に集結することになります。
研究所には大きく病因、病態、疾患制御と3つ研究部門に分かれて各分野が存在しておりますが、当研究室は、病因研究部門に所属し、『分子生体防御分野』という新しい名前を掲げてスタートさせていただくことになりました。現在、私を含め、6名のスタッフのみの構成で動いております。これまでおられた瀧本将人准教授と近畿大からきてくれた早川清雄助教、北大歯学研究科からの客員研究員の葛巻哲先生の他,技術職員である吉田栄子さんと事務補佐の佐藤裕香さん,そして私です。また当研究室は北大理学部化学専攻の協力講座としても参加させていただくことになり、化学と医学の架け橋的な役割として学生さんの教育にも積極的に協力していきたいとも考えております。早速、平成20年1月からは、化学科3年の学生2名が参加してくれることになりました。さらに、中国からの留学生が1名、4月からは北大の臨床系より大学院生2名、さらに修士学生1名がメンバーに加わる予定ですので、北研究棟での新しい研究室では、12名のメンバーで新装スタートすることになります。
私は道産子(和寒町出身)でありまして、札幌医科大学在学中は、当会員の先生方に大変御世話になりました。当時付属がん研究所分子生物学部門にいらっしゃった藤永
蕙先生をはじめ、微生物学の藤井暢弘先生や小児科の堤 裕幸先生の講義を受けました。その後、第一内科(故、谷内 昭先生、現学長、今井浩三先生)の大学院を卒業し、現職に着任するまでは、東京大学医学研究科免疫学講座(谷口維紹教授)において、自然免疫系において代表的なサイトカインの1つであるI型インターフェロン(IFN)のシグナル伝達系の解析をはじめ、その産生誘導に関わる転写因子であるIFN調節因子(IRFs: IFN-regulatory factors)ファミリーメンバーについての研究に従事して参りました。
当分子生体防御分野の研究室におきましてもこれまでの研究成果をステップとしてその教室の名前の通り、感染やがんに対して引き起こされる生体防御応答の分子機構の解明についての研究を推進していきたいと考えております。とくに侵入した微生物を如何に生体が認識するかという自然免疫系の中でも最も初期応答に着目して、いわゆる微生物のセンサー分子を同定し、その下流のシグナル伝達経路を明らかにしていくこと目指したいと考えております。これに関連して、これまで研究していたIRF転写因子を活性化する新しい経路につながる上流の分子として、最近、DAI (DNA-dependent
activator of IRFs)という細胞質DNAセンサーの候補分子の1つを東大免疫学教室と共に同定するに至りました。以前から、核酸であるDNA自体が強力な免疫賦活剤であることが報告されていたのに加え、最近のToll様受容体に代表される微生物認識機構の研究の流れから、ウイルスや細菌由来のDNAを細胞質内で認識するセンサー分子が存在していることが予想されていました。例えば、リステリアという細菌が細胞質内へ感染する状況においてはその細菌由来のDNAを介してI型IFNをはじめ、各種サイトカインやケモカインの発現誘導が起こることが知られています。今回のDAI分子がこれらの感染プロセスに関与している分子であるか否かについては今後の課題と考えています。一方、このDAI分子以外のセンサー分子の存在を示唆する結果も得られていることから我々はさらなるDNAセンサーを追求することも計画しています。またDNA認識機構と自己免疫疾患の病態との関連性については大変興味深い課題であると考えております。実際に、哺乳類細胞由来のDNAを認識する自然免疫センサーの存在が示されていたり、また、全身性エリテマトーデス(SLE)においては、適応免疫系による応答としてDNAに対する自己抗体が検出されるが、この際の自己のDNAを同時に自然免疫系のセンサーで認識するということによる免疫細胞の活性化機構も想定されます。一方、がん細胞の排除においても自然免疫応答が重要であることが知られており、とくにがん細胞認識の分子メカニズムに着目して解析を進めたいと考えております。このように感染やがんに対する生体防御系の細胞応答について特に認識に関わる分子機構に着目して研究を推進することで、新たな治療原理の発見に貢献できることを目指しております。
このような研究体制のもと、人材育成という教育面においても力を入れていきたいと考えております。これまでに短期間ではありましたが、私が経験した臨床現場からみた基礎研究の重要性の認識に基づき、基礎医学研究部門としての役割を生かし、積極的に臨床系からの大学院生の受け入れを行うなど、臨床研究と基礎研究との連携役として教育研究の発展に努めたいと思います。学部と問わず、様々なバックグラウンドをもった学生や研究員を積極的に受け入れ、互いに異なった知識や背景をもった研究者が交流することで得られる独創的な研究を展開したいと考えております。微力ではございますが、ウイルス学会北海道支部の一員としては少しでも北の大地から世界に発信できるサイエンスを発信できることを目指して頑張って参りたいと存じます。どうぞ御指導よろしくお願い申し上げます。また、興味のある方は是非ご連絡ください。
<連絡先>
住所:〒060-0815 札幌市北区北15条西7丁目、メール:takaoka@igm.hokudai.ac.jp、電話:011-706-5020、ホームページ:http://www.igm.hokudai.ac.jp/sci