--- 自然免疫応答を活性化する細胞質内DNAセンサーの同定 ---

〜 論文内容の概略 〜

私たちのからだは、ウイルスや細菌などの病原体が感染したときに、それを排除する巧妙な免疫系の仕組みがあります。とくに、侵入してきた病原体をいち早く検知するセンサー(ウイルスや細菌などの病原体の侵入を伝える、免疫系の警報装置のようなもの)が備わっていることが近年の研究によって明らかとなってきました。そのセンサーとは、 病原体の構成成分の一部(ウイルスや細菌の細胞膜の構成分子や、DNAやRNAといった核酸など)を生体が認識する病原体認識受容体(PRRs; pattern recognition receptors)というものです。我々はこの受容体によって侵入した病原体を検知することで、適切な免疫系と活性化し、病原体の排除を行うという感染に対しての防御が働きます。

今までには細胞外に存在する核酸(DNAおよびRNA)に対する病原体認識受容体としてはTLRs(Toll-like receptors)の特定のメンバーが知られていました。一方、細胞質内に存在するRNAを認識する受容体としては、現在、京都大学の藤田先生や米山先生らが発見したRIG-I(retinoic acid-inducible gene-I)などが報告されていますが、細胞質内に存在するDNAに対する病原体認識受容体については、大阪大学の審良先生や石井先生らの論文(Nat. Immunol. 7, 40-48, 2006)やエール大学のMedzhitovらの論文(Immunity 24, 93-103, 2006)でその存在は示唆されていたものの、実体は明らかではありませんでした。今回、我々はこの細胞質内DNAセンサーの候補分子を見出しました。


東京大学大学院医学系研究科免疫学講座谷口維紹教授や高岡はこれまでにインターフェロン(IFN)に関する研究をおこなってきましたが(谷口教授はIFN-betaの遺伝子を世界で初めて同定された方で、谷口教授の貢献により現在IFN製剤が広く臨床応用され、現在多くの患者の治療が実現されるに至っております)、そのインターフェロンによって発現が誘導される遺伝子の中から、今回、病原体由来の核酸(DNA)を察知する受容体(DAI;DNA-dependent activator of IFN-regulatory factors)を同定するに至りました。DNA刺激により、この分子を介してI型IFNや炎症性サイトカイン・ケモカインが誘導されることがわかりました。この分子は細胞質に存在しており、おそらくウイルスや細菌が細胞に感染した際に、細胞の中でその病原体のDNAをとらえることで、細胞が活性化され、感染初期の自然免疫系の活性化を引き起こす重要な因子と考えています(予想図)。今回の発見は、病原体による感染の最もはじめの認識という段階を明らかにすることに貢献しました。今後は実際にどのような病原体認識に関わっているか、 in vivoでの役割の検討も含めてさらに研究を進めることが次なる課題と考えている。さらに今回の分子は、病原体由来のDNAのみならず、ほ乳類の細胞由来のDNAによる応答にも関与していることを示唆する結果も示されました。このことは、この分子が自己由来のDNAがわるさをしていると考えられている自己免疫疾患の病態と関連している可能性も考えられ、今後の興味深いもう一つの課題と考えています。  この研究には多くの先生のご協力はもとより、とくに東京大学免疫学講座の大学院生である王志超君や崔明権君をはじめ、多くの大学院学生のご協力で成し得ることができました。ここに深く感謝申し上げます。