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Institute for Genetic Medicine, Hokkaido University

北海道大学遺伝子病制御研究所

附属感染癌研究センター


感染癌研究センターの研究内容について

 本研究所では、拠点活動における国際的な活動として(ⅰ)拠点共同研究、(ⅱ)研究集会開催サポート、(ⅲ) 国際学術交流協定の締結を実施している。 これらの取り組みから多くの論文が発表されている。特に評価の定まったインパクトファクター5以上の学術雑誌数も平成28年度6報、平成29年度6報、平成30年度13報、令和元年度18報、令和2年度15報で、さらに、特許出願件数は、平成28年度9件、平成29年度6件、平成30年度15件、令和元年度14件、令和2年度6件と増加傾向にて推移している。

  • 1. ヒトパピローマウイルス(HPV)関連感染癌の遺伝子発現解析と予防、治療標的分子の同定

  •  2018年には世界中で約57万人が子宮頸癌と診断され、約31万人が亡くなっている(WHO調べ)。子宮頸癌の約99%はハイリスク型HPVの感染による感染癌である。HPVにはワクチンが存在し、世界的にはハイリスク型HPVの感染が抑制され、子宮頸癌の発生が減少していることが報告されている。しかしながら、日本では副反応の問題によりワクチン接種率は低く、HPV感染による子宮頸癌の発生は抑えられていない。ワクチン接種率の問題に加え、日本では悪性度が高く、治療に対する反応や予後が悪い症例が臨床上の問題となっている。子宮頸癌の悪性度および治療法選択に関わる因子の一つとして組織型が挙げられるが、診断マーカーが存在しないため、鑑別診断が難しいものも存在する。本プロジェクトは本学医学研究院 産婦人科学教室および北海道大学病院病理部との共同研究であり、HPV陽性子宮頸癌の診断・予後マーカーおよび治療標的の同定を目的として、子宮頸がん検体のRNAシーケンスによる遺伝子発現プロファイルの解析を行っている。 これまでに100ほどの検体を準備し、30ほどの解析が終了し、各組織型で発現の高い遺伝子を診断マーカー候補因子として抽出した。これらの候補因子は、今後、癌組織の多重免疫染色などにより、診断マーカーとしての有用性を評価していく。また、遺伝子発現プロファイルと、組織型・ステージ・治療に対する反応性・予後との相関を解析する。すでに得られている結果からも遺伝子発現プロファイルに基づいたクラスター解析では、組織型依存的にクラスターが形成される傾向があった(図1)。子宮頸癌のうち最も多い組織型である扁平上皮癌は2つの異なるクラスターに分類され、予後と関連がある傾向があることが示された。さらに、解析検体数を増やし、臨床情報との相関解析を行って予防、治療標的分子を同定する。

  • 2. HPV陽性感染癌とCOVID-19病態のマウスモデルの作製

  •  HPV陽性子宮頸癌研究における障害の一つとしては、適切な疾患モデルが存在しないことが挙げられる。いくつかの先行研究もあるが未だヒトの子宮頸癌の発症を評価できるものはない。本プロジェクトでは、新規HPV陽性子宮頸癌マウスモデルの確立を目的としている (図2A)。このモデルを用いて、プロジェクト(1)で同定した治療標的因子の機能解析、抗癌剤のスクリーニングなどに用いる。COVID-19病態は、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) による新興感染症である。ほとんどのCOVID-19患者は無症状、軽症で回復するが、加齢者、既往症を持つ患者、ストレスを持つ患者では重症化する。この重症化には、免疫系特にT細胞の過剰活性化からもたらされるサイトカインストームが重要であるが、COVID-19重傷者のサイトカインストームを解析するためのマウスモデルは未だ存在しない。本プロジェクトでは、サイトカインストームモデルマウスを作製し、特にCOVID-19重症化に関わるサイトカインストーム誘導機構の解析および新規治療標的の探索に用いる (図2B)。必要なウイルス、変異マウスはすでに導入した。

  • 3. COVID-19重症化の主要因サイトカインストームの解析と予防、治療標的分子の同定

  •  本研究所では、感染癌センターを主体に2020年6月に新型コロナウイルスPCR検査の衛生検査所に指定され、北大病院検査部と協働して患者唾液より新型コロナウイルスPCR検査を実施する体制を整えた。今後、新型コロナウイルス感染症が拡大した際には、感染癌研究センターを中心に検査を実施する。サイトカインストーム関連の研究も実施している。線維芽細胞、血管内皮細胞などの非免疫細胞で、NF-κBとSTAT3が同時に活性化することにより、NF-κB過剰活性化が起こり、サイトカイン・ケモカインの過剰発現が誘導される炎症誘導機構、「IL-6アンプ」がサイトカインストーム誘導に重要である可能性が高いことがわかってきている。実際、英国では、2021年1月にIL-6信号抑制薬が、人工呼吸器使用患者に対する治療薬として認定された。本研究所ではSARS-CoV-2感染により誘導されるアンギオテンシンII (Ang II) -アンギオテンシン受容体タイプ1 (AT1R)シグナルがIL-6アンプを活性化し、サイトカインストームを誘導するメカニズムについて論文を発表した (Immunity 2020)(図3)。また、肺には迷走神経が分布し、本神経回路を介する神経反射経路がCOVID-19の病態に影響を与える可能性も考えられる。そのため、現在、IL-6アンプと神経反射のCOVID-19重症化への役割をマウスモデル、患者検体を用いて検討中である。さらに、本研究所が、長年取り組んでいるウイルス感染を抑制するI型インターフェロン信号解析や抑制性のマクロファージの増殖因子であるIL-34の解析とCOVID-19増悪機構についての研究も実施中である。