Murakami Lab

メッセージ

研究を最後までやりきろう!

村上正晃 写真研究室の人たちによく話す例え話に山登りの話しがあります。登山家は「どうせ登るのなら高い山に登りたい」と考える。しかし、私たち研究者にとっては、山 が高いか低いかは登り切ってみないことには分からない。斬新な研究だと思っていたものがつまらなかったり、途中で投げ出したくなったりするかもしれません。しかし、「最後までやりきろう!」。私は相談に来た学生たちにそう言います。

やり切らないと次が見えてきません。例え、つまらない研究成果だとしても、「つまらない」と分かったことが重要なのです。「それならば次はこれをやろう」というモチベーション、新たな方向性も生まれてきます。中途半端でいくつもの研究を投げ出すと、いつまでも中途半端な研究者にしかなれないのです。

研究には2種類あると私は思っています。やれば必ずできる研究と結果が予測できない研究の二つです。例えば、数年前には完了しましたが、ヒトゲノムの解析はいかに困難があれども、やれば必ずできる研究でしょう。ゲノムの情報が「ある」ことは明白で、1年かかるか100年かかるかは分かりませんが、必ず達成することができることが予想された研究です。

もう一つの結果が予測できない、意外な研究というのは、行っている研究者も思いもよらない結果が出る研究です。例えば、私たちが経験したものでは、『IL-6サイトカインが免疫細胞に働くと免疫反応を弱めるが、非免疫細胞に働くと免疫反応を増強 (J. Exp. Med. 2006, J. Exp. Med. 2011など)』したり、『肝臓の細胞からTリンパ球を元気にするIL-7サイトカインが発現 (Immunity 2009)』したり、『IL-6はIL-17サイトカインを介するNFkBと言う転写因子の作用を強めて自己のポジチィブフィードバックを形成し病気を誘導 (Immunity 2008)』したり、『重力刺激、痛み刺激が血液脳関門に免疫細胞の中枢神経系への侵入口を作った (Cell 2012, eLife 2015など)』り、『NFkBのポジチィブフィードバックがヒトの慢性炎症性疾患に関連した (Cell Reports 2013など)』りなどがあります。このような研究は、その進む方向が、研究開始時点では、定かでなく、研究を行った結果、初めて明らかになることです。

私の恩師の岸本忠三先生(阪大免疫学フロンティア研究センター教授、元阪大総長、元細胞工学センター免疫学、元内科学第3講座教授)と平野俊夫先生(阪大総長、元生命機能研究科・医学系研究科免疫発生学教授)によってIL-6サイトカインの研究がはじまった当時、IL-6が関節リウマチ患者の関節液中に多量存在しているからといってもIL-6が関節リウマチの原因なのか、それとも 副次的結果かはわかりませんでした。現在、臨床の現場で用いられて多くの関節リウマチ患者さんたちに朗報を与えている抗ヒトIL-6レセプター抗体の結果 にて、ヒトにて実際にIL-6が、少なくとのあるサブタイプの関節リウマチの原因であることが証明されました。抗ヒトIL-6レセプター抗体の作出までに は多くの疾患モデルを用いた地道な基礎研究の蓄積があった事は言うまでもありません。私たちも本研究課題の基礎研究から前述したようないくつかの事実を見 いだしてきました。

とはいえ、私たち生命科学、基礎医学の研究者の仕事は人間がまだ知らないだけのことを明らかにするだけです。その過程にはいわゆる“創造”の世界はありま せん。クールに実験結果を分析して、自然界の事実を見いだすのみです。その点は芸術家とは全く別物だと思います。着想や技法の斬新性や最新技術を用いた解析は重要ですが、あとは「考えるより動け」といったところではないでしょうか。

IL-17やIL-6などの炎症性サイトカインが慢性炎症性疾患の発症にどのように関わるかを証明できたことは研究者冥利につきることでした。臨床に役立つ基礎医学を極めるとの"夢"が“これらの自己免疫疾患を中心とした慢性炎症研究を続け、1つ1つの研究テーマをやり切る”ことにより現実のものとなったのです。しかし、基礎研究に終わりはありません。これは、さらなる自然の摂理を解き明かす第一歩でもあります。 基礎医学研究によって、物事の本質を見極め真理を追究しましょう!

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