Murakami Lab

研究紹介

1. 神経系-免疫系の相互作用から慢性炎症性疾患の病態を理解しようとする先駆的な研究

局所的な神経の活性が、病原T細胞の血液脳関門の通過ゲートを形成する。

中枢神経系である脳や脊髄の血管は、細菌やウイルスなどの影響を防ぐために特殊な関所として血液脳関門を形成しています。血液脳関門は、免疫細胞はもとより、大きなたんぱく質なども通過できません。しかし、中枢神経系にも細菌やウイルスが感染し、がんや炎症などに起因する難病が発症します。こうした背景から、病原体や免疫細胞などが中枢神経系に入るゲートがある可能性が考えられてきました。しかし、そのゲートがどこにあり、またどのように形成されるのかなど、実体は不明でした。今回、中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデルを用いて、血液脳関門のゲートの部位とその形成機構を調べ、第5腰椎の背側の血管がそのゲートであることを世界で初めて突き止めました。また、地球からの重力による日常的な刺激が第5腰椎付近の神経を活性化させ、それが慢性炎症の誘導機構“炎症アンプ”を活性化することによってこのゲートが形成されることを突き止めました。今回の成果により、精神的ストレスでさまざまな病気が増悪する仕組み、あるいは、適度な運動が病気を改善するメカニズム、さらに、なぜ針治療で多くの病気が改善するのかなど、今まで不明であった神経や精神と免疫系の相互作用の分子基盤が解明されることが期待されます。

Arima Y., M. Harada, D. Kamimura, J-H. Park, F. Kawano, F. E. Yull, T. Kawamoto, Y. Iwakura, U.A.K. Betz, G. Márquez, T. S. Blackwell, Y. Ohira, T. Hirano, and M. Murakami.
Regional Neural Activation Defines a Gateway for Autoreactive T Cells to Cross the Blood-Brain Barrier.
Cell.148: 447-457, 2012 (Cell) (PubMed) (Cell Previews)

2. 自己免疫疾患を含む慢性炎症性疾患の発症機序として「炎症回路」を発見し、その分子機構の解明をめざす意欲的な研究

炎症アンプ(IL-6アンプ)はさまざまなヒトの疾患と関連している。

局所炎症を誘導する分子機構『炎症アンプ(IL-6アンプ)』が、ヒトの様々な疾患や病態に関与することを全ゲノムを対象にした機能的スクリーニングの結果とヒト疾患関連遺伝子データベースとの情報とを照合する新たな方法によって明らかにしました。また、炎症アンプの機能的スクリーニングによって同定された遺伝子の1つである増殖因子エピレグリンについて詳細な解析を行い、エピレグリンの中和や細胞内信号伝達の遮断によって、関節リウマチや多発性硬化症の動物モデルの症状が劇的に改善されることを示しました。さらに、ヒトの関節リウマチ、多発性硬化症および動脈硬化の患者の血清中のエピレグリン量は、対照群と比較して有意に増加していることが分かりました。これらの結果は、大規模な機能的スクリーニングデータをヒト疾患の発症機構と関連づける新たな方法を確立するとともに、増殖因子エピレグリンがヒトの慢性炎症性疾患の疾患マーカーや治療標的として利用できる可能性を示唆しています。

Masaaki Murakami*#, Masaya Harada*, Daisuke Kamimura*, Hideki Ogura, Yuko Okuyama, Noriko Kumai, Azusa Okuyama, Rajeev Singh, Jing-Jing Jiang, Toru Atsumi, Sayaka Shiraya, Yuji Nakatsuji, Makoto Kinoshita, Hitoshi Kohsaka, Makoto Nishida, Saburo Sakoda, Nobuyuki Miyasaka, Keiko Yamauchi-Takihara, and Toshio Hirano# (*, equal contribution; #, correspondence)
Disease-Association Analysis of an Inflammation-Related Feedback Loop.
Cell Reports.3: 946-959, 2013 (PubMed)

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