■研究内容

私たちは、神経幹細胞 (NSC)/オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC)を使い、これら細胞の自己複製・分化の分子機構を解析すると共に、加齢に伴う幹細胞/前駆細胞の変化がどのように細胞の運命(老化、癌化等)を決定し、組織機能の低下や疾患発症に繋がるのか、そのメカニズムを研究しています。これらの知見を基に、新しい治療法の創出を目的として研究を進めています。現在は以下の3つの研究を精力的に進めています。

(1) 新規オリゴデンドロサイト分化制御因子の作用機構の解析

オリゴデンドロサイトは、ニューロンの機能維持(神経軸索伸張の制御、跳躍伝導)に重要な働きを担っています。また、その発生異常は多発性硬化症や神経膠腫(グリオーマ、glioma)の発生に関わっていると考えられています。このようにオリゴデンドロサイトの発生に関わる分子機構の解明は、中枢神経系の働きや疾患を理解する一助になります。私たちはオリゴデンドロサイト分化の実験系にRNA干渉(short hairpin RNA (shRNA)とmicro RNA (miRNA)実験法を取り入れ、分化に関わる因子群の網羅的なスクリーニングを行い、新規遺伝子群を同定しました。shRNAライブラリーを用いた遺伝子機能スクリーニング法で同定した新規オリゴデンドロサイト分化制御因子(oligodendrocyte differentiation regulator、Odire)は、オリゴデンドロサイトの形態形成と分化関連遺伝子の発現の両方をコントロールする因子であることを発見しました。また、オリゴデンドロサイト分化を抑制する新規miRNAを同定し、その標的因子や制御メカニズムの解析を進めています。

(2)新規グリオーマ幹細胞特異的因子の機能解析と治療方法の検討・創出を試みる。

私たちは、これまでに初代培養NSC、OPCから人工マウスグリオーマ幹細胞 (glioma-initiating cell, GIC) 株を作製し、その性状解析を進めてきました。これら細胞は、ヌードマウス脳に10個移植することにより2ヶ月以内に継代移植可能な悪性グリオーマ(Glioblastoma multiforme (GBM), WHO grade IV)を形成することから、癌幹細胞が高濃縮された細胞群であると考えられます。この人工GIC株を用いた網羅的な遺伝子発現解析により複数の癌幹細胞特異的因子を同定し、その機能解析を進めています。加えて移植したGICが生体内でどのような挙動を示すのか、正常細胞との相互作用解析を進めると共に、新規癌幹細胞破壊方法を探索しています。
候補因子群の中で私たちは膜タンパク質に注目し、機能の明らかにされていない膜タンパク質Glim(Glioma-initiating cell membrane protein)に注目し、その機能解析に注力しています。また、Glimを標的とした抗体医薬を生み出すため、理化学研究所との共同研究によりヒト化抗体・完全ヒト抗体の作製を進めています。更に今後は、Glimのシグナル伝達機構の解析を進め、GICを殺傷できる新規低分子医薬を探索する予定です。

(3)細胞老化因子の作用機構の解析、加齢に伴う疾患との関わりを検討する。

OPCを用いた細胞老化の実験系を新たに確立し、細胞老化に関わる複数の未解析因子を同定しました。それら因子の中で特に、分泌因子Ecrg4(Esophageal cancer related gene 4)の機能解析を進めています。Ecrg4は元々食道がんの周辺細胞で発現が亢進している遺伝子として同定されていましたが、細胞老化に伴い発現誘導されること、OPCの老化誘導と維持に関わっていること、加齢に伴い生体内のNSC、OPC、神経細胞で発現が亢進することを見つけました。現在は、その受容体の同定、シグナル伝達系の解析や神経系疾患(癌や加齢に伴う神経疾患)との関わりを解析しています。

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北海道大学 遺伝子病制御研究所 幹細胞生物学分野