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ゲノムプロジェクトの進展に伴い、高等真核生物を含む多くの生物種の全ゲノム配列が決定され、我々は現在ポストゲノムと呼ばれる時代で社会生活を送っています。将来的には、おそらく社会生活を営む個人個人のゲノム配列が決定され、全ての人の配列情報が医療現場に導入されることでしょう。例えば、ゲノム配列情報は、全ての遺伝情報を含むことから、ガンを含む多くの疾患リスクの遺伝的傾向を判定することに貢献できます。さらに身近な所では、ゲノム配列を調べることで血液検査を必要とせず、血液型を特定することができます。この様なポストゲノム時代に、我々研究者は、社会に対してどの様な意義深い貢献が出来るでしょうか。

ポストゲノム時代の重要な課題の 1 つがエピジェネティック機構による遺伝子制御メカニズムの解明です。このエピジェネティック機構とは、DNA に結合しているヒストンと呼ばれるタンパク質の様々な修飾と DNA のメチル化修飾を介して、遺伝子の転写を含む様々な核内現象を制御する分子機構の総称です。つまり、エピジェネティック機構は、DNA 配列の変化を介さず核内現象を制御します。このエピジェネティクス研究分野は、1990 年代から急速な発展を遂げてきました。

それに加えて、“3D Genome Organization:ゲノム構造の 3 次元組織化”が新たな研究分野として脚光を浴びています。この新規研究分野は、文字通りゲノムの構造とその生物学的意義を研究する学術分野です。最近の研究から、ゲノム上に分布する遺伝情報は、遺伝子座間の 3 次元的な相互作用ネットワークにより組織化されており、このゲノムの組織化が転写を含む様々な核内現象と密接に関わっていることが明らかとなってきています。例えば、ヒト遺伝子の転写活性化に際し、エンハンサー領域と遺伝子のプロモーター領域とが相互作用することが確認されています。このエンハンサーとプロモーター間の相互作用も 3D Genome Organization の 1 種類と言えます。エンハンサーとプロモーター間の相互作用の例が示す様に、ゲノム構造の変形は、DNA 配列の変化を介さずに遺伝子発現に影響を及ぼします。従って、3D Genome Organization に関する研究は、従来のエピジェネティクス分野を拡大解釈した新規分野とも言えるでしょう。

分裂酵母ゲノムの 3 次元構造モデル

ELP/Hi-C ゲノミクス法を用いて、ゲノム全体の相互作用を網羅的に検出し、その結果をバイオインフォマティックスを駆使して分裂酵母ゲノムの 3 次元構造をモデル化した(右パネル;Tanizawa et al. Nucleic Acids Research 2010)。分裂酵母とヒト IMR90 細胞を DAPI 染色し、DNA を可視化した(左パネル)。

上の図は、当研究室が決定した分裂酵母ゲノムの 3 次元構造モデルです。3D Genome Organization 研究分野は、未熟な領域ですので、多くの未開拓な研究テーマを抱えています。例えば、ゲノム構造を微視的あるいは巨視的に見たときには、異なるサイズの構造体を確認することができます。その最も微視的なものはヌクレオソームと呼ばれ、最も巨視的なものは染色体テリトリーと呼ばれる構造体です。すなわち、大小サイズの異なる様々な構造体が多重構造を形成しているのがゲノム構造の全体像であると考えられています。しかし、これらの異なるサイズのゲノム構造体の生物学的役割に関しては未知の部分が多く残っており、今後の研究によって解明されることが期待されます。

この分野での未解明な研究テーマとして以下のものが含まれます。

  • どの様なゲノム構造が存在しているのか?
  • 異なるサイズのゲノム構造は、どの様にして構築されるのか?
  • 転写を含む様々な核内現象と異なるゲノム構造の間には、どの様な相関があるのか?
  • ゲノム構造の破綻と疾患の間にはどの様な相関があるのか?

当研究室では、次世代シーケンサーを基盤とした最先端ゲノミクスはもとより、顕微鏡解析、分子生物学的手法、遺伝学的手法などを駆使して、上記の研究テーマに果敢に挑戦しています。全ての生命の根本である遺伝物質が持つ構造とその意義を探るのが 3D Genome Organization 研究です。我々の体内に存在するゲノムが持つ大変美しい構造に魅せられて夢中になって研究に取り組んでみませんか。

具体的な研究については、研究内容をご参照ください。

当研究室の研究テーマに興味のある方は、ゲノム医生物学分野秘書・上林倫子(Email: genome-hisho@igm.hokudai.ac.jp)までお気楽にご連絡ください。