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学生のみなさんへ

この度、クロスアポイントメント教授として、北海道大学の遺伝子病制御研究所で研究室を持つ機会に恵まれました。ここでは、自己紹介を兼ねて学生のみなさんへメッセージをお届けします。

私は、15 歳から 20 歳の若い時分、電子工学、プログラミング、統計学等を学びました。その後、突拍子も無いことに砂漠の緑化を真剣に考え、植物のことを学べる大学に編入し、耐塩性植物の作成という研究テーマに取り組みました。この研究では、植物細胞を液体培養することにより生じる自然変異を利用し、耐塩性植物の作成に挑みました。その後、さらに植物のことを深く学ぶべく、東京大学の大坪栄一先生の研究室に入門しました。この研究室は、大腸菌と植物の可動性遺伝因子、いわゆるトランスポゾンの研究において国内外で著名な研究室で、大坪栄一先生と久子先生のご夫妻が研究室を運営されていました。因みに、トランスポゾンの転移は、ゲノムの可塑性に関与しています。私は、この研究室で植物の新規トランスポゾンを単離すると同時に、DNA のメチル化というエピジェネティックな機構が新規トランスポゾンの転移活性を抑制していることを明らかにしました。

それらの結果をまとめて博士号を修得した後、エピジェネティクスに関してさらに見識を深めるべく、ニューヨーク州のコールドスプリングハーバー研究所でポスドク、メリーランド州にある米国立衛生研究所・国立がん研究所でスタッフ科学者として働きました。その期間に、分裂酵母のエピジェネティクス研究、特にヒストンの修飾を介したヘテロクロマチン形成に関する研究を行いました。一旦ヘテロクロマチンが形成されると、その領域内に存在する遺伝子の転写が抑制されます。この研究中、ヘテロクロマチン構造をあるドメイン内に閉じ込めておくバウンダリーと呼ばれる DNA 配列が存在し、その DNA 配列が核膜に局在していることを突き止めました。つまり、この結果は、ある特殊な 3 次元ゲノム構造(3D Genome Organization)がゲノムのドメイン形成と遺伝子の発現制御に関与していることを示しています。

この研究成果が出た時点で独立を考えていた私は、未解明な部分が多い 3D Genome Organization に興味を持ち、ウィスター研究所で独立したのをきっかけに、この分野での研究を始めました。それが 2007 年の事です。当時は、現在用いられているゲノミクス法は存在せず、全ゲノムの構造を解明するには程遠い状態でした。その様な中、私たちの提案したゲノミクス法が NIH Director’s New Innovator Award によって研究支援を受け、2010 年には、我々独自のゲノミクス法を用いて、分裂酵母ゲノムの 3 次元構造モデルを提唱しました。この研究では、この項の最初にご紹介した工学系のプログラミング経験も非常に役立ちました。一生懸命取り組んできたことは、無駄にはならない様です。

以上に私がこれまで取り組んできた研究の推移を述べてきましたが、その理由は、どんな研究テーマであっても真剣に取り組むことの重要性を説明したかったからです。自分の研究しているテーマが非常に重要であると信じて熱心に取り組み、結果に隠れている面白い現象を更に調べてみる。私の持論ですが、生物研究は、対象が生物という複雑すぎるものであるが故、頭脳明晰すぎる人とそうで無い人との差が出づらい学術分野だと思います。別の言い方をすれば、「数打ちゃ当たる」ということで、熱心に実験すればするほど正解を導き出す確率が上がります。少なくとも私は、その部分を信じて研究を進めてきました。

少し別の話になりますが、おそらく基礎研究は、多種多様な生物種で保存されている現象を説明することにより重要性が増す様に思います。それに対して、医学研究は、ヒトの病気を治すことが究極的な目的です。この 2 つの学術分野は、その哲学的な背景から全く相入れない様な感じがしますが、基礎研究の多様性を保つことにより、多くの基礎研究から将来的な医学研究の役に立つものが出てくると思っています。私の研究室では、分裂酵母を用いたゲノム構造に関する基礎研究を行いながら、比較的応用研究に近い細胞老化現象(がん抑制メカニズム)についても研究しています。「二兎追うものは一兎も得ず」にならない様にしたいものです。3D Genome Organization という括りで一兎を追っていると考えています。

この項の最後になりますが、現在私は、北海道大学の遺伝子病制御研究所と米国オレゴン大学の分子生物学研究所で研究室を運営しています。北海道大学での勤務期間には、もちろん通常通り研究室を運営し、オレゴン大学で勤務中は、学生さんとはテレカンファレンスで対応します。今では、テレカンファレンスの技術も向上し、私が何処でいようとも研究の議論は十分にできます。加えて、当研究室の太田信哉先生(准教授)と私が常に連絡を取り合い、学生さんの対応に当たります。私の研究室の学生さんで(短期)留学を考えている人には、オレゴン大学の研究室での受け入れを検討します。

具体的な研究については、研究内容をご参照ください。
研究室の見学は、いつでも大歓迎です。少しでも興味をお持ち方は、下のメールアドレスまでお気楽にご連絡ください。

ゲノム医生物学分野秘書・上林倫子 (Email: genome-hisho@igm.hokudai.ac.jp)