
こんにちは、GACHAの室長を務めている谷澤 英樹です。
このたび、私たちの活動やお知らせをお届けする場として「GACHA Blog」をスタートしました。
初回となる今回は、ホームページの更新や、これまでの1年間の裏側についてご紹介します。特に「どのようにしてGACHAが正式な受託サービスとしてスタートできたのか」、その経緯をお伝えしたいと思います。
NextSeq2000という最先端機器を支えるには
GACHAでは、Illumina社製の次世代シークエンサー「NextSeq2000」を用いて、ゲノム解析サービスを提供しています。この装置は非常に高性能である一方、導入コストも高額で、取得価格は4,378万円にのぼります。
故障時の修理費は驚くほど高額で、以下の見積もりをいただきました:
- 光学系の故障:7,742万円
- 電気系の故障:1,529万円
- 温度調整系の故障:524万円
このようなリスクに備えるため、GACHAでは最低限の保守サービスである「ブロンズプラン」という保守契約を結んでおり、これには年間350万円の費用がかかります。これはラボ単独で賄うには大きな負担となります。
「無償でサービス提供」の限界
大学の仕組み上、研究者同士がサービス提供の対価として金銭をやり取りするためには、正式な受託制度を通す必要があり、その手続きは煩雑かつ時間のかかるものです。大学では研究費の適正な使用と透明性を確保するため、契約書の作成や審査、押印など複数のステップを経ることが求められます。
このため、研究者同士のやりとりでは、対価を直接金銭で支払うのではなく、物々交換や試薬の提供など、非金銭的な形式が慣例として行われてきました。GACHAも例外ではなく、「ユーザーが試薬を購入し提供する」という形式で、実質的に無償でのサービス提供を行ってきました。
しかしこの方法では、装置の保守契約のような、物品ではなく、しかも年始に全額を一括で支払う必要のある高額な費用をカバーすることができません。こうした支出はラボ単独では負担が重く、これまでIGMから保守契約費の半額を補助していただき、残りをラボで何とか捻出するという形で運営を続けてきました。
とはいえ、IGMからは「今後も恒常的に補助を続けることは難しい」とのご意見をいただいており、残る半額の継続的な負担もラボには重くのしかかっていました。
このままではサービスの継続は困難であると判断し、私たちは、正式な受託サービスとして料金を受け取れる制度を整えることを決意しました。
北海道大学の制度化への挑戦
大学の事務と連携し、2024年6月から「北海道大学遺伝子病制御研究所ゲノム解析等受託規程」の制定に向けた準備をスタートしました。
このプロセスは、想像以上に厳密かつ膨大な作業の連続でした:
- サービスに関係するすべての使用機器について、消費電力、占有面積、資産番号などの資料、およびその証拠資料となる写真の提出
- 各機器ごとの稼働時間、および作業時間の算出
- 試薬・消耗品の見積書を添付するとともに、サービス1単位当たりの単価を計算
- 減価償却費・光熱費・人件費(技術補助員への支払い)などの積算
- 他施設の事例を参考にした規程案の作成と改訂作業
医学部事務のご担当者や、大学の法規担当者をはじめ、多くの関係者と半年以上にわたって月3回以上のペースでやりとりを重ね、ようやく形にすることができました。
適正価格設定への工夫と努力
大学の制度上、学外からの依頼には学内よりも高い料金設定になるように計算式が設定されています。特にNextSeq2000の減価償却の計算においては、
- 学内:取得価格の上限1,000万円
- 学外:実価格4,378万円全額適用
という大きな差が発生し、初期試算では学外料金が学内の約2倍となってしまいました。
しかし私たちは、利用者の負担が過度にならないよう、制度上許容される範囲で再計算を重ね、料金の上昇を抑える方法を模索してきました。
人件費については、当初から技術補助員のみを対象としており、研究員など他のメンバーの人件費は含まれていません。
そのうえで、技術補助員の作業時間についても実際よりも短めに設定することで料金の上昇を抑えています。こうした工夫により、制度に準拠しながらも、市場価格と比較して遜色のない価格帯を実現できるよう努めています。
その結果、サービス価格を抑えつつ最低限の維持費を確保する形となりましたが、現在の料金だけですべての経費をまかなうことは難しく、一部は科研費などの外部資金を活用して補う計画になっています。今後、より多くの依頼を受けられるようになれば、この不足分を徐々に減らし、より持続可能な運営が可能になることを期待しています。
継続的な運営体制の確立へ
制度化の一方で、実際に運営を続けるには資金が必要です。これまでにもIGMから
- 2023年と2024年の保守契約費の半額:430万円
- NextSeq2000を再運用した際にかかった点検サービス費:120万円
- 2025年度の補助(保守契約費の一部と試薬代):150万円
という多大なご支援をいただいています。この支援に応えるため、大学執行部への説明資料を何度も作成・改訂し、教授会、さらに、北海道大学執行部の了承を経て、2025年3月、ついに正式な規程が成立しました。
初の受託年へ。皆さまのご利用をお待ちしています!
2025年度は、GACHAとして正式に受託料金を受け取れる初めての年になります。どれだけの受注をいただけるかは未知数ですが、信頼できる体制が整った今、これまで以上に多くの研究者の皆さまに貢献できると確信しています。
今後も、舞台裏を発信していきます
このブログでは、今後もGACHAの運営の裏側や新たな試み、日々の出来事などを綴っていきたいと考えています。研究現場に寄り添う視点から、少しでも皆さまの参考になれば幸いです。
どうぞ、これからもGACHAをよろしくお願いいたします!