生体膜における脂質の非対称性とその役割

 細胞膜の脂質二重層間では、個々の脂質がランダムに分布しているわけではなく、 細胞の外側と細胞質側ではその組成が異なっていることが知られています。例えばスフィンゴ脂質や糖脂質は細胞外側に、フォスファチジルエタノールアミンやフォスファチジルセリンは細胞質側、といった具合です。細胞膜で最初に見出されたこの脂質の非対称性は、ゴルジ体や小胞体といった内膜系にも固有の形で存在し、それぞれの膜の機能維持に重要な役割を有しているのではないかと考えられるようになってきました。例えば、フォスファチジルセリンは細胞膜の細胞質側層には存在しますが、内膜系の細胞質側層には存在しないことが明らかとなっています。

脂質非対称性の役割を理解するためには、脂質非対称性の形成に関わる因子の解明が重要です。最近、脂質を輸送して生体膜脂質の非対称性を形成するタンパク質としてフリッペースが注目されています。

フリッペースは酵母からヒトまで広く保存されている4型のP-type ATPaseですが、リン脂質を非細胞質側の層から細胞質側の層へと輸送します。私達は、出芽酵母をモデル系に用いてフリッペースのサブユニット構成を解明したことをきっかけに、フリッペースの細胞機能を解明してきました。これまでに、フリッペースは細胞の極性や細胞内小胞輸送において重要な役割を果たしていることを明らかにしています。特に、フリッペースによる脂質輸送は、エンドソームからの輸送小胞の形成に重要な役割を果たしていると考えていて、その分子機構の解明に取り組んでいます。

このように私たちは、膜脂質の動態といった微視的な細胞内環境の変化が、どのようにして多様な細胞機能を制御しているのかに大きな興味を持っています。脂質の非対称性をはじめ、膜脂質のダイナミックな変化が制御する新しい細胞機能、またその制御に関与する新規のタンパク質を見出して、「生体膜脂質の細胞生物学」を推進しています。

なお、当研究室の詳しい研究内容は、「主要発表論文」をご覧下さい。

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