北海道大学遺伝子病制御研究所

研究成果

ドナーB細胞を用いた移植免疫寛容誘導法を開発 ~iPS細胞を用いた移植医療への応用が期待~(免疫生物分野)

免疫生物分野の村田智己氏、清野研一郎教授らの研究グループは、かずさDNA研究所との共同研究により、ドナーのB細胞を用いた移植免疫寛容誘導法を開発しました。


iPS細胞を用いた移植においては、免疫拒絶反応を低減させるために主要組織適合抗原(MHC)を揃えたり、ゲノム編集によってその発現を低下させるなどの工夫が考えられています。一方、研究グループは以前より、MHC以外の抗原(マイナー抗原)による免疫拒絶反応も重要な問題であることを指摘してきました(Murata et al. Sci Rep 10:1, 2020)。今回研究グループは、このマイナー抗原によって拒絶反応が起こる実験系を用い、ドナーの細胞を用いた細胞治療によって拒絶反応を制御できるか検討しました。

移植における拒絶反応を低減させるためにドナーの細胞をレシピエントに投与すること(donor specific transfusion; DST)は以前から行われてきました。しかし、iPS細胞を用いた移植を想定したドナー/レシピエントの組み合わせにおいて、どのようなDSTが最も効果的であるのかは不明でした。研究グループはドナーの脾臓細胞を用いたDSTが有効であることをまず示し、その後脾臓に含まれるどの細胞種が最も有効であるか検討しました。その結果、脾臓由来B細胞が効果的かつ安全に拒絶反応を抑制すること、しかも免疫寛容(免疫抑制剤を投与しなくても移植片が生着し続ける状態)を誘導することを発見しました。ドナーB細胞を用いたDSTによりレシピエントのT細胞にドナーに対する不応答性が誘導され、iPS細胞由来の移植片も生着することが判明しました。

本研究の成果により、今後iPS細胞を用いた移植における効果的かつ安全な免疫制御法が確立されることが期待されます。本研究成果は、2023年4月13日公開のInternational Immunology誌にオンライン掲載されました。また、本研究は遺伝子病制御研究所共同利用・共同研究拠点の支援により行われました。

Murata et al. Induction of allograft tolerance by adoptive transfer of donor B cells: an immune regulatory strategy for transplantation using MHC-matched iPS cells. Int Immunol dxad008, Published: 13 April 2023

DOI:doi.org/10.1093/intimm/dxad008