投稿日:2023-11-14
私たちには免疫系があるのになぜ「がん」が発生するのか?
北海道大学遺伝子病制御研究所の和田はるか准教授及び清野研一郎教授らの研究グループは、同研究所の近藤亨教授との共同研究により、免疫がある状態での「がん」の開始にはがん幹細胞によるマクロファージ(Mφ)の老化がカギとなっていることを突き止めました。
免疫系をもつ動物に「がん」が発生するのはなぜでしょうか。近年、「がん」の発端となる細胞として「がん幹細胞」が提唱されました。がん幹細胞を標的とした治療を行えば、理論上はがんの根治につながる可能性があるため、「がん幹細胞」を決定することは重要な課題となりました。しかし、ヒトやマウスのように免疫のある状態でもがんをつくる「がん幹細胞」については依然としてよく分からないままでした。そこで研究グループは“免疫のある状態でもがんを開始する「真のがん幹細胞」”とはどのようながん細胞であるかを探究することとしました。
「がん幹細胞」と免疫のある状態ではがんをつくらない「非がん幹細胞」を比較解析したところ、がん幹細胞はIL-6を介してMφを細胞老化状態に誘導していることが明らかになりました(図1)。
細胞老化状態のMφは免疫抑制因子アルギナーゼ1を産生しており、腫瘍組織内のT細胞は活性化できない状態になっていました。このメカニズムにより、結果的にがん幹細胞は免疫のある状態においても免疫系からの監視を逃れ、がん組織の形成を可能にしていると考えられました(図2)。
更に研究グループは老化Mφが生命機能の維持に重要なNADを分解し減少させる老化関連分子CD38を高発現していることを発見しました。老化MφではNADの減少が予測されますが、代謝改善剤NMNの添加によりNAD量を回復することが可能です。そこでがん幹細胞を移植したマウスにNMNを投与したところ、がんの発生が減少することが分かりました。この結果から、がんの発生を阻止するためにNMNを用いる方法が有効である可能性が考えられました。
なお、本研究成果は、2023年11月14日(日本時間16時00分)公開のJournal for Immunotherapy of Cancer誌(DOI: 10.1136/jitc-2023-006677)に掲載される予定です。
本研究は、科学研究費補助金(26640066、16K18408)、AMED(日本医療研究開発機構)、加藤記念バイオサイエンス振興財団、寿原記念財団、秋山記念生命科学振興財団、日本白血病研究基金、三菱財団、遺伝子病制御研究所共同利用・共同研究拠点、新たな学際領域を生み出す異分野融合研究拠点をコアにした若手研究者育成拠点、フォトエキサイトニクス拠点等の支援のもと実施されました。