北海道大学遺伝子病制御研究所

研究成果

膵がんの新しい治療標的を発見 〜新規治療法の開発を加速〜(がん制御学分野)

遺伝子病制御研究所がん制御学分野の園下将大教授らの研究グループは、膵がんの新たな治療標的としてGSK3(Glycogen synthase kinase 3)を同定し、GSK3とMEK(Mitogen-activated protein kinase kinase)の同時阻害が膵がんの新規治療戦略の候補となることを見出しました。


膵がんは有効な治療法がほとんど存在しない代表的な難治がんの一つで、今後も罹患者数・死亡者数ともに増加し続けることが確実視されています。このため、新規治療標的の同定や治療薬開発が喫緊の福祉課題となっています。この課題を解決すべく研究グループでは最近、膵がん患者の中でも最も予後が悪い患者群で観察される四つの遺伝子変異(がん遺伝子KRASの活性化とがん抑制遺伝子群TP53・CDKN2A・SMAD4の不活性化)を再現した「4-hitハエ」を作出し、このハエが膵がんの新規治療標的や哺乳類モデルでも有効な治療薬シーズの同定に有用であることを見出していました。

本研究では、この4-hitハエを用いて全キナーゼを対象とする遺伝学的スクリーニングを実施し、GSK3の発現の阻害が腫瘍形質の減弱をもたらすことを見出しました。また、膵がん臨床検体における免疫組織化学的解析により、GSK3の高発現が膵がん患者の予後の悪化と有意に相関することが分かりました。研究グループはこれまでに、MEKが膵がん形成に重要な役割を果たすことを見出していましたが、本研究でGSK3阻害剤CHIR99021とMEK阻害薬trametinibの組み合わせが、マウスに移植した4-hit保有ヒト膵がん細胞の増殖を有意に抑制することも発見しました。加えて研究グループは、この組み合わせが細胞分裂制御因子として知られるPLK1(Polo-like kinase 1)の活性の低下を招来することも見出し、実際に4-hitハエでPLK1の発現を低減すると腫瘍形質が減弱することを確認しました。

これらの結果は、臨床検体・マウス・ショウジョウバエを相補的に活用した独自の異分野融合研究基盤を駆使することで、膵がんの発生機序解析や治療薬シーズ同定を個体レベルで効率的に実施できることを示しており、今後の治療薬開発への貢献が期待されます。

なお、本研究成果は、2024年2月6日(火)公開の日本癌学会の機関誌Cancer Science誌にオンライン掲載されました。
論文名:Concurrent targeting of GSK3 and MEK as a therapeutic strategy to treat pancreatic ductal carcinoma
(膵がんの新規治療戦略としてのGSK3・MEK同時阻害)
DOI: 10.1111/cas.16100