北海道大学遺伝子病制御研究所

研究成果

免疫抑制性の新規自己マクロファージ細胞療法を開発 〜肝硬変に対する新たな治療方法の提案が期待〜(免疫生物分野)

免疫生物分野の五十嵐佑一学術研究員、清野研一郎教授らは、株式会社メディネット、かずさDNA研究所との共同研究により、新しい方法で誘導した自己マクロファージが肝線維化の抑制、改善効果を示すことを明らかにし、そのメカニズムの一端を解明しました。


重度の肝硬変は肝移植による治療が一般的ですが、臓器移植ドナーが不足しており、移植できたとしても生涯にわたる免疫抑制剤の服用が必要になるなど、種々の問題点が残っています。これまでの研究により、患者本人の免疫細胞の一つであるマクロファージを活用することで、肝硬変を抑制・改善できることが分かってきました。

本研究では、比較的新しいサイトカインであるIL-34とIL-4を組み合わせて誘導したマクロファージが、肝硬変の病態の本体である肝線維化を効果的に抑制することを発見しました。

IL-34+IL-4誘導マクロファージは、急性、慢性いずれのマウス肝炎モデルにおいても肝線維化を抑制し、原因タンパク質であるコラーゲンの沈着を抑えるほか、肝実質の中で死んでいく細胞を減少させることが分かりました。さらに、肝臓組織中の細胞傷害性T細胞の数を減少させる免疫抑制的な効果を有することも明らかとなり、その機序としてPD-1シグナルを介してT細胞の増殖を抑えることを突き止めました。これらIL-34+IL-4誘導マクロファージの性質は、ヒト細胞においても示されることを証明し、本研究成果が今後ヒト肝硬変患者さんへ臨床応用される可能性を示しました。

これらの研究成果は、今後の科学研究における自己細胞療法の開発にとって有益な情報を提供するとともに、さらなる作用機序の解明が肝硬変治療をより発展させる展望を提示します。

なお、本研究成果は、日本時間2025年1月24日(金)公開のInflammation and Regeneration誌に掲載されました。

【論文名】
Amelioration of liver fibrosis with autologous macrophages induced by IL-34-based condition(IL-34に基づく条件下で誘導された自己マクロファージによる肝線維化の改善)
【著者名】
五十嵐佑一1、和田はるか1、武藤真人2、曽根涼平2、長谷川 嘉則3、清野研一郎1(1北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野、2株式会社メディネット、3かずさDNA研究所ゲノム事業推進部)
【雑誌名】
Inflammation and Regeneration(日本炎症・再生医学会学誌)
DOI: 10.1186/s41232-025-00364-7

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