北海道大学遺伝子病制御研究所

研究成果

ストレスが抗ウイルス応答を選択的に調整する仕組みを発見 ~ウイルス感染症に対する新たな治療展開に期待~(分子細胞生物研究室)

北海道大学遺伝子病制御研究所の岡崎朋彦准教授らの研究グループは、東京大学と徳島大学との共同研究により、抗ウイルス応答において中心的な役割を担うタンパク質MAVS(ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質)が、細胞ストレスに起因するシグナル経路によってリン酸化修飾を受けることで、インターフェロン(IFN)産生が促進されることを明らかにしました。


私たちの体を構成する細胞は、酸化ストレスや小胞体ストレスなど様々なストレスにさらされており、それに対抗する「細胞ストレス応答」という仕組みを備えています。近年、この仕組みは細胞を守るだけではなく、免疫応答の調節にも関わることが明らかになってきました。

ウイルスに感染した細胞は、抗ウイルス物質インターフェロン(IFN)を産生して周囲の細胞に警告を発するか、あるいは、感染細胞が自ら死を選ぶ(アポトーシス)など、異なる対応を取ります。この応答の中心にあるのが、MAVSです。岡崎准教授らの研究グループはこれまでに、ストレス応答にも関わる酵素群「ASKファミリー」が、MAVSを介した免疫応答を制御することを発見してきました。さらに、最近の知見により、ストレスが免疫応答の「強さ」だけではなく、「質」にも影響を与える可能性が示唆されています。
しかしながら、どのストレス経路が、どのような仕組みでMAVSの活性や免疫応答を制御しているのかは依然として不明でした。

本研究では、ストレス応答に関わるASKファミリーに着目し、ASK1がp38 MAPKを介して、MAVSのリン酸化を誘導することを発見しました。さらに、このリン酸化が、IFN応答を選択的に増強する一方で、感染細胞のアポトーシスには影響を与えないことを明らかにしました。つまり、細胞ストレスはMAVSのリン酸化を介して、免疫応答の方向性を制御していることが示されました。

本研究で明らかになった分子機構は、ウイルス感染症に対する新たな治療戦略の糸口となると期待されます。

なお、本研究成果は、2025年8月13日(水)公開のiScience誌にオンライン掲載されました。

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