北海道大学遺伝子病制御研究所

研究成果

異なる遺伝子変異パターンを持つすい管腺がんに共通する新たな治療標的候補を発見 〜遺伝子変異パターンを再現したショウジョウバエの解析からSTK17Bを同定〜(がん制御学分野)

北海道大学遺伝子病制御研究所がん制御学分野の園下将大教授、海涵大学院生らの研究グループは、すい管腺がん(PDAC)で高頻度に認められる遺伝子変異の組み合わせを再現したモデルショウジョウバエを用いた網羅的なキノームスクリーニングにより、PDACの異なる遺伝子変異パターンに共通するキナーゼ依存性を明らかにしました。


PDACは、すい臓がんの大部分を占める予後不良ながんで、新たな治療法の開発が求められています。PDACでは、がん遺伝子KRASやがん抑制遺伝子TP53、CDKN2A、SMAD4の異常が様々な組み合わせで生じます。研究グループはこれまでに、これら4遺伝子の異常を再現した「4-hitモデルショウジョウバエ」を用いて、MEK、AURKB、GSK3、GPx4などの治療標的候補を同定してきました。一方、PDACには、2遺伝子に異常を持つ「2-hit」や3遺伝子に異常を持つ「3-hit」などのパターンもあり、それぞれに特有の標的と、複数のパターンに共通する標的の探索が課題となっていました。
本研究では、2-hit及び3-hitパターンを再現したモデルショウジョウバエ群を構築しました。このうち2-hitと、SMAD4不活性化を含む3-hitのモデルで、個体の生存性を指標としてキナーゼ遺伝子の機能を網羅的に解析し、既報の4-hitモデルの結果と比較しました。その結果、各パターンに特有のキナーゼ依存性と、複数のパターンに共通するキナーゼ依存性を見出しました。共通する標的候補の一つであるショウジョウバエのDrakに着目し、対応するヒトの分子STK17A及びSTK17B*3を解析したところ、STK17Bの発現抑制により、解析したすべてのヒトPDAC細胞のスフェロイド*4の増殖が抑制されました。また、STK17Bの発現を抑制したスフェロイドでは、DNA複製や細胞周期の進行に関連する遺伝子群の発現が協調的に低下していました。これらの結果は、STK17Bが、複数の遺伝子変異パターンに共通する新たな治療標的候補であることを示しています。

なお、本研究成果は、2026年9月1日(火)にCancer Science誌でオンライン公開されました。

【論文名】
Genotype-informed whole-animal kinome screening reveals shared kinase vulnerabilities across driver contexts in PDAC (全個体キノームスクリーニングによる、PDACの異なるドライバー遺伝子背景に共通するキナーゼ脆弱性の同定)
【DOI】https://doi.org/10.1111/cas.70522

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図の説明:PDACで高頻度に認められるKRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4の遺伝子異常の組み合わせを再現したモデルショウジョウバエの解析を起点とする、複数のパターンに共通する新たな治療標的候補STK17Bの同定。